ざわざわとファンたちがどよめくなか、わたしはルシサスとして、自分は死んでいないこと、ある事情があってルシサスの家に身を隠していたことを話した。ほんとにルシサスちゃんなの?!偽物に決まってる!でもそれにしてはそっくりすぎじゃない?などなど色々な声が聞こえたがとりあえず無視だ。不安な時こそ堂々としてろというのがマフィアの心構えだ。いやそうでもないか




「事情というのが、わたしの口からは言いにくいことで…」




そこまでがわたしの台詞だ。骸さんが即興で書いた台本の通りに喋ってしまうと少し緊張が解けてロベリアとつないでいた手を離しそうになる。ロベリアはすかさず手を握りなおして「あほ、まだ任務は終わってないんですよ」と可愛らしい声のまま小声で叱ってきた。隊長はこんなときでもやっぱりしっかりしている。



「さあさあさあさあみなさん!ご心配おかけしましたねえ!ツイッターも大荒れだったじゃあないですか!いやはやほんとに申し訳ない!」



そしてマンションの路地裏から両手を広げて現れたのは支配人(元ボス)。さっきのハブられ感とは一転、やっぱりあの衣装着ると人が変わったように自信満々のエンターテイナーになる。骸さんもそれをわかっていたから支配人をかくまったのだろうか。
あの人、連載の最初のほうでパイナップルな頭頂部握られただけのおっさんだったから舐めてたけど、結構やり手なのかもしれない。



「ロベリアもルシサスも大変なところよく話してくれた!わたしもはじめ聞いたときは信じられませんでした、でもそんなことも起きるものなんですねぇ~~」



え、なにが、二人になんかあったの、と、大勢のファンは支配人に釘付けになっている。やっぱり話術も人が変わったみたいに上手になるな。あれこそ幻術みたいだけど、支配人は本物だ。幻術なんて一ミリもお世話になってない。



「実は、ルシサスには双子の兄がいるのです。ただ世間には公表してきませんでした。なぜなら…」



ごくり。群衆が息を飲んだ。



「なぜなら、彼は5年前、マフィアに誘拐されたまま身元が行方知れずだったからなのです」



群衆は静かなままその言葉の続きを待っている。
が、その一部はこの話が嘘だと言わんばかりに叫んでいる。あのルシサスは偽物だ!と。



「ただ、二週間前、その兄がこの近くで目撃されました、あのツイッターの動画のことです」



あれは絶対にロベリアの声だった!ルシサスの兄のわけがない!と、動画の投稿者らしき男が支配人の前に詰め寄った。見せつけるように動画を再生する。隊長の間延びした声が確かに再生されたが、支配人はそのイレギュラーな事態にもアドリブで対応する。



「そんなブレブレの動画、音声を後からくっつけることだってできますよね? 実際、その動画の男の口元はちゃんと映ってないじゃないですか」

「俺が証拠をでっち上げたっていうのか!」

「そうでないことを証明できますか?」



男は悔しそうに携帯を地面に叩きつけると「ロベリアが殺したんだ!ルシサスは死んだんだ!」と大声で喚き始める。その異常な空気にまたファンたちがざわめきはじめる。


と、そのとき、わたしの背後から、台本通りありえない声が聞こえてきた。



「ミーがここでロベリアを殺してもお前はそう主張し続けるんですかー?」



傑作ですねー。という声はさらにわたしの近くで聞こえてくる。す、と離された右手の先を見れば、そこにはロベリアをうしろから羽交い締めにしたフラン隊長の姿が。わたしはファンに見えないようにこっそり背後のフラン隊長とアイコンタクトする。ここからが気合の入れどころだ。


さっきまでの部分は骸さんの脚本だったけど今からの続きははわたしとベルが書いた脚本だ。読者の皆さん楽しんでいってね。さて次の話で決着つけますよ!




20160607