フラン隊長は実は女の子になりたかった!

…っていうのは嘘で。




「ミーが男だってことバレたんですよ、だからミーのファンからも非難轟々で」

「え、どのタイミングでばれたんですか」

「ルシサスのファミリーと戦闘してたときに見られました」




二週間ほど前、ツイッターで「ロベリア男説浮上wwwwww」というコメントとともにぶれぶれの動画が一枚流失したそうだ。見てみると、2秒ほどの短い動画だったが、確かにそこにいるのはロベリアではなく隊長だ。髪もつやつやのエメラルドグリーンだし体格も完全に男だ。なぜロベリアだとわかってしまったのだろう。




「声だけ残ってたんですよ……」

「あの『ロベリアちゃんにおまかせっ』の声ですか」

「そうです」




動画の音声をONにすると確かに隊長の声はロベリアのそれだった。
厳密に言えば隊長が敵の背後を取って「後ろですよー、はいげろげろー」と回し蹴りを食らわせた瞬間に遠くにいた一般人と目があったのだそうだ。

隊長はだんだんアイドルモードとヴァリアーモードの区別がなくなってきていて、ロベリアのときも語尾がだらりとのびた喋り方をしていた。わたしがイタリアに帰る前からほとんど語尾が伸びていたから、きっとそれでばれてしまったのだろう。

動画が流失すると、「俺もこの緑髪見たことあるぞ」等々の目撃証言が相次ぎ、今に至る。



マフィアが一般人を殺すのはマフィア界においても重罪だし、なにしろ隊長の素顔がばれてしまっている以上、その姿で人を殺すことはできない。マフィアだし殺し屋なのに逃げることしか出来なくなってしまっているのだ。

いよいよやばくなってきたぞ。




「ロベリアの見た目のままファミリーと戦わないように調整してたんですけど、それが逆に仇になった感じですねー」

「声だけ戻し忘れるとかあるんですね…」

「まあ、ミーはどっかの誰かさんと違ってあんまりしゃべんないですし、自分が今どっちの声だったかなんて結構覚えてないもんですよ、ほんと」

「皮肉言ってる場合じゃないですよ」

「知ってますよアホンダラ」

「そんなこと言ってると助けませんよ」

「すみませんでした助けてください」




今までの人生で最も弱ってるんじゃないかと思うくらい隊長はかなり参っていて、それはわたし程度の人間のちょっとした脅しにも屈するところをみればわかるだろう。




「とにかく、隊長は今どこにいるんですか」

「アジトの一番廊下側の部屋です」

「ああ、外から見えないあそこか…」

「今ここでルシサスの一味に狙われたらマジで終わります、分が悪すぎます」

「確かに、外から見えない場所ってなると戦えるエリアが極端に制限されちゃいますよね…」




今までの通話を聴いていたのかいないのか。ふと見えばベルはサイドブレーキに手をかけている。
おお、助けに行く気になったのか、と顔を明るくしたのも束の間、ゆるりと動き出した車はアジトの逆方向へ。

えっこいつ根っからの自己中かよ、さすがにそれはない




「ちょ、おい、金髪」

「誰に向かって口聞いてんの」

「お前しかいねーだろアホ」

「かっちーん」




隊長ごめん。助けはもうちょっとかかりそうだわ。




20160606