わたしさあ、一般人ってやったことないからあんまり実感ないけどさ、たぶん金曜日って週の中でも結構気分が上がる曜日だって聞いてるよ。アメリカとかすごいよね。Thank GOD It's Friday で TGIFとか言うんでしょ?毎週神に感謝するほど楽しいのかよ金曜日。最高かよ。


でも最近のわたしにとってはマジで地獄の曜日と化しています。




「カルミアちゃんしかいないっ




んなわけねえだろクソが!と思いながら笑顔を振りまいて汗だくになりながら歌って踊る仕事をはじめて3ヶ月になりました。本音と発言の食い違いがすごすぎてもう一人の人格が形成され始めています。そろそろほんとにターゲット殺してイタリア帰りたい。


ジャッポーネのアイドルのなんと血生臭いこと。どのアイドルグループも示し合わせたように「選挙」を行っていて、アイドルたちはファンからいかに票を集めるかということを毎日考えている。人気ランキングの位置がそのまま舞台上の立ち位置になっているのだから当然と言えば当然のことだ。

とりあえず舞台に上がれるのは上位30人だけなので、30位と29位からスタートした私(カルミア)と隊長(ロベリア)は舞台から落っこちないよう必死で笑顔(の幻覚)と抜群のスタイル(の幻覚)と超絶技巧のダンス(の幻覚)を見せつけまくっている。まあ大体は幻覚でいい感じになっている。




「さーてようやく今月のランキング発表ですねー」

「隊長この前10位でしたっけ?ライブの感じからしてもっと上がってそうですね、ランキング」

「できればお前を上位に乗せたいんですけどー…」

「えっ突然のデレ」

「何言ってるんですか、ミーの役目は幻覚でロベリアとカルミアを生み出すだけなんですよー。ターゲット殺すのは名前だって指示書にも書いてあったじゃないですかー」

「いや、ちょっと、指示書は読まない主義なんで」

「それ隊長に言っちゃダメなやつですね」




そうなのだ!
ここまでわたしはほとんど何も仕事をしていない。なんならオーディションに落ちたりしている。30位以内に食い込むために何人か無駄に殺したりもしてるし、結果至上主義のヴァリアーといえど経過がここまでお粗末だとボスにあわせる顔がない。

次の指示はグループ1位を奪い取り、ターゲットからコンタクトを取ってくるよう仕向けよ、とのこと。指示書によれば、いままでターゲットは自分を脅かすアイドルを、組織の力を使って消してきたらしい。こわー!

つまり、ロベリアかカルミアが1位になることで、ターゲットがわたしたちを消そうとしてくる状況を生み出すのである。そこで、むしろわたしたちがターゲットを消す。まあそこまでいけば簡単な仕事だ。

もともとターゲットは他人を寄せ付けないタイプなので、そうやってわざわざ狙われにいかないと近づくことができない、ということらしかった。ふつうにライブハウスとかで殺せばいいじゃんと言ったら「ライブハウスは常にファンの目があるから無理」とのことだった。ファン恐るべし。




『それでは運命の月末金曜日!ランキング発表の時間です!』




ライブハウスに三桁超えのアイドルたちがすし詰め状態で集められる、月末金曜日。この日だけはライブハウスにファンを入れないのだ。所属アイドルたちが全員集められ、ライブハウスの支配人(元ボス)からランキングの発表が行われる。この様子は生放送でネット配信されているので、やっぱりここでターゲットを殺すのもなかなか厳しい。




『今月は衝撃の結果を発表することになりそうです…!!』




えー!どーゆーこと?衝撃ってー?こわーい!などと四方から可愛らしい声が聞こえる。それよりわたしは毎月会うこの支配人(元ボス)がどういう経緯であのイタリアの辺鄙な土地から出て秋葉原のライブハウスを運営することになったのか、そしていつからそんな奇抜な格好で司会をしているのかが気になってあんまり話が頭に入ってこない。

まあでも支配人がこんなこと言うのは初めてのことだったのでちょっとだけ気にはなった。もしかしたら隊長が1位にでもなったのかもしれない。



最下位である141位から順に名前が読み上げられる。支配人の背後のスクリーンにはツイッターのハッシュタグ〈#どりーむすとりーむ〉がつけられたつぶやきのタイムラインが表示されている。名前が読まれるたびにそのタイムラインがドバドバ流れ、ぎゅんぎゅん更新されていく。あ、いままで言うの忘れてたけどうちのアイドルグループはどりーむすとりーむっていうらしいです。




『23位は期待の新人!カルミア!』




あ、わたし呼ばれた。とりあえず30位以内に残れたのでセーフセーフ。隊長が「ハァ?」みたいな顔で睨んできてるけど見ないふりをしてステージに上がる。うーん、やっぱり隊長が1位になってターゲット殺したほうが仕事早いよね絶対。


呼ばれた30位以内のアイドルたちが順にステージに上がってくる。28人、あがってきたところで、支配人はマイクをぎゅっと持ち直した。


えっ隊長とターゲットしかもう残ってないじゃん。

これ隊長が1位になるやつじゃん。




『それでは…!!

1位のドリームストリーマーを発表します!!!!!』




なんだよドリームストリーマーって。
心の中で突っ込みながら隊長(ロベリア)を見れば、黒髪を揺らしていつものようににこにこしていた。たぶんあの幻覚の裏では立ちながら寝てるに違いない。ちょっとふらふらしてるし絶対寝てる。




『なんと今回は不動の一位、ルシサスと、今一番話題の新人、ロベリアが同率一位を獲得しましたー!!!!!!!!』




支配人の後ろでタイムラインが洪水みたいになっている。災害だ。ターゲットであるルシサスと隊長は手を取り合ってぴょんぴょん跳ねている。うわーすごい女子っぽい。隊長、この任務が終わってもあの感じが抜けなかったらかなりウケるな。

見た目には自分を脅かす人を消すなんて1ミリも考えていなそうなターゲットは、隊長と連れ立って「これからは2人でどりーむすとりーむを盛り上げていきたいです」とにこにこコメントしている。1位の座が奪われたわけではないからだろうか。
隣の隊長は新人らしく「ありがとうございますこれからもがんばります」とありきたりなことを言っている。



結果発表が終わり、舞台袖に戻っていく途中、隊長がこちらへ寄ってきてなにやら耳打ちしてきた。わたしは苦笑いせざるを得なかった。やっぱりターゲットはターゲットになるだけの理由があるということだ。
まだ映し出されているタイムラインを、もう誰も見てはいない。




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ルシサスを超えたら消されるぞ、気をつけろよ!ロベリア!

#どりーむすとりーむ
#ルシサス1位
#ロベリア1位
#ルシサスの呪い
#ロベリア消滅フラグ

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ルシサスとロベリア1位とか俺得すぎるけど、今まで1位になった奴ら全員アイドル辞めてるのがマジ怖いよな。。。ロベリアがんばれ、まじがんばれ

#どりーむすとりーむ
#ルシサス1位
#ロベリア1位
#ロベリアは俺の嫁
#ルシサスの呪い

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次の犠牲はロベリアかー。逆にルシサスが消されるとかだったら展開的にアツい(それはそれで事案だけど)

#どりーむすとりーむ
#ルシサス1位
#ロベリア1位
#まさかの同率1位

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ロベリアガチ推しだから来月は投票するのやめようかな…。ロベリアいなくならないでほしい><

#どりーむすとりーむ
#ルシサス1位
#ロベリア1位
#ロベリアに投票しないで
#ロベリアを守れ

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「ルシサスに早速宣告されましたー。『わたしから1位を奪ったら命はないと思いなさい』だそうですー」




20160604