「えっ」


今日も濃いブルーの夜空に穴が空いたみたいに月が浮かんで、遠くで狼か何かが遠吠えをかましている。その中ぱたぱたとはためくのは我が暗殺部隊ヴァリアーの隊旗。高級そうに見えるが旗は旗、やすっちい音をたてながら風になびいていた。

…って2010年の書き出しをうろ覚えで読んでみたけどあってるかな??!?!だいたいあってるよね???!?!?

答え合わせは読者の皆さんにお願いするとして、いやあとにかく、連載開始から6年も経ったというのにまったく終わりが見えないこの話を、どうやらまだ性懲りも無くつづけるようなのです。

ということで現在は新米隊員のウォーミングアップ、Zランクの任務を見守っています名前です。いやいやいや…書き出しが最初と似てたからってさすがに私がスパイで入隊するところから始めるわけじゃあないですよ。前のファミリーなんてもう解散してるんだし。




「なにひとりでぶつぶついってんの名前」

「読者への配慮だよ」

「きも」

「ベルだって何話か前にやってたじゃん!」




そして今日もいつも通り、ベル(先輩)は私のコートのフードについてるファーをむしりながら適当に援護してくれております。いやZランクってソシャゲのチュートリアルみたいなもんだし幹部が来る必要ってまったくないんだけど。




「だって俺お前いじるのが生きがいみたいなとこあるし」

「なにそのゴミみたいな生きがい」

「おら、こっちばっか向いてると新米が死ぬぜ」

「えっ」




ベル(先輩)がナイフの切っ先を向けた方へと顔をむける。今回の任務はポケモンで言えば最初のライバル戦みたいなクソザコのおもちゃみたいな戦いなはずなんだけれど、なぜか新米Aが腹を抱えてうずくまっているのが見える。え、昨晩のめっちゃ面白いコントとか思い出して強烈な思い出し笑いしてるとかそういうのじゃないよね?



「あーあーあー」



助けに入るつもりなんてさらさらなかったものだから突然の出来事に動揺していると、ベルがさっきまで右手に持っていたナイフをちいさなサバイバルナイフに持ち替えて、持ち替えたそばからすっと投げた。

早すぎて軌道は見えなかったけれど、どうやら交差点の向こうのビルの上階から、別の敵が攻撃を仕掛けてきていたらしい。ぱりん、と窓が割れる音がして、サバイバルナイフが男の心臓に刺さった。

そうそう連載再開だからと思って最初「狼か何かが遠吠えをかましている」とか言ってみたけどぜんぜんかましてないからそこんとこよろしくお願いします。ここは郊外だけれど立派な都心です。森の中とかじゃありません。三つ向こうの道路は駅まで続く大通りですからよろしく。




「なんで?ターゲットは一匹狼のヒットマンだったはずじゃ」

「別に仲間ってわけじゃねーだろ。新米だろうがなんだろうが、ヴァリアーを殺したって功績が欲しいクソ野郎がたまにいるじゃん」




今回もそれじゃね?と、ベル(先輩)はうししと笑って立ち上がる。シワひとつないコートがぶわりと風になびく。こうやってみるとベル(先輩)は惚れ惚れするほどかっこいいのに、どうしてイタリアーノのように優しくなれないんだろう。




「俺が時間稼いでやったってのにそこでうんこ座りしてんじゃねーよクソ名前!」

「ぎゃあああああああああ」




屋根の上でうんこ座りしていた私をベル(先輩)の長い足が思い切り蹴り上げる。窓の割れた音を皮切りに暗闇から湧いて出てくる怪しい男たちが、空から落下する私にも見えた。大声で叫んだものだから、新米も怪しい男たちも一斉に私の方を振り返る。あとは私が片付けろってことですか、先輩……!!

なんとか両足で地面に降り立った私は臨戦態勢に入ろうと太ももに引っ掛けていたサバイバルナイフを…………

ん?さっきベルが投げたのってもしかして



「ベルのバカアアアアアアアアアアアアアア」



私の今夜二度目の絶叫が夜の闇にこだまする。さっき投げたのわたしのナイフじゃん!
丸腰のまま体術で敵に向かっていくわたしをベル(先輩)はころげまわって笑いながら最後まで見てくれていたらしい。優しいのか優しくないのかなんとも言い難い、この悪魔は健在です。




20160125