ちょっとグロ注意








小さい頃はバレリーナになりたかったの。あの頃は私、バレリーナ以外の職業なんて学校の先生かテレビスターだけだと思ってた。今思えば馬鹿らしいね、大人でも信じないような職業の私がそんなこと、考えてたなんて。無垢。無垢で美しかったんだねきっと。いや、うーん。ただバカで視界が狭かっただけか。
…ねえ、このトゥシューズ貰っていいかしら?まあ、貰いたいから返り血つかないように気をつけてたんだけど。ああ懐かしいわ、当時すっごく憧れのブランドだったじゃない、このメーカー。…可愛い。



薄いピンク色をしたトゥシューズ、暗いこの部屋に浮かび上がる。女は一通りそれを眺めると、ポケットからライターを取り出した。一言口添えするのは嫌いだけど一応言っておくと、女は大の煙草嫌い。勿論、そのペッタンコなポケットから煙草が現れることはなかった。



ギシ…、ズリ ズリ …ッ



『いっとくけどおれはたすけねーよ』と口パクで言って笑ったらあいつは顔をくしゃりと歪めた。しし、女ってこわーい。



「昔、この子、私のシューズを隠したの。もちろん悪意でね、酷いでしょう」



ジュ、と鈍い悲鳴を上げて、光沢は焦げ跡に変わっていく。トゥシューズをつま先から炙りはじめた女は、「あいつ」をついに一瞥することなく殺しはじめた。



「あのね、なんでベルが今まで貴方を逃がしていたか、分かる?」
「……ッ!」
「ふふ、足から焦げてくね。痛い?怖い?まあいいや、もう分かってるよね、」



私が復讐できるようにだよ。

真っ暗な部屋にライターだけがゆらゆらと光を放ち、声帯を失った愚か者は意識を手放しかける。刹那、女は頬を叩く。



「いつ寝ていいって、言った?」



つま先からふくらはぎ、膝上まで焦がしたところであいつはついに事切れた。一般人にしてはよくここまで生きてたと思う。さすが俺の家系だけある。



「私のこといじめてた犯人がベルの姪だったなんてね、うける」
「オレはどっちかってーとお前の執念深さがうける」



焼け焦げたトゥシューズに、姪の血が滴って染みた。「あ、スクからメールだ。…昼食は冷製トマトパスタだぞぉ」声帯のない姪の喉目掛け、オレはナイフを突き刺した。




20100922