10歩。歩いてから考えた。少し戸惑ってから後ろを振り返ってみる。気配の消える彼ならもしかしたら、居るかもしれない。



「…やっぱりいない」



“やっぱり”と思いつつ、若干の期待もあったから悔しくて髪をかきあげた。この茶髪ロングだってベルが好きだって言ったから頑張ってのばしていたのに。なんとなく無意味な気がして腹がたつけど、すぐしゅんとしてしまう。だから私は彼を諦めて、まっすぐ部屋に帰ることにした。

…ベルのばか。ばか。大馬鹿。

手のひらで顔を覆って、わたしは一人で言い訳を始めた。
だって昨日まで任務任務で疲れてたんだもん、しょうがないじゃん。ボスだってあんなに一週間で詰め込むことないのになあ。そうか。そうだ。私のせいじゃないんだ、任務のせいだ。

ひとのせい、任務のせいにしたところでベルの機嫌が直るはずもなく。私はうーんと数秒唸ってからくるりと踵をかえす。謝ろ。…その瞬間、何か大きな銃口がこちらを向いていたのが見えた。その正体を暴く隙もなく私はぼーんとどこかへ飛ばされた。

飛ばされた?




*




たっぷり10秒数えてから撫でてみる。「ひっ!」ビビられた。どうやらこいつ、10年前から飛ばされて来たっぽい。馬鹿みてー。しし、と笑うと思い当たる節があるのか口を開いた。



「…ベ、ベルフェゴール、さん、ですか?」

「ベルフェゴールさんって何だよ」

「ひっ」

「別に間違っちゃないけど」

「へへ、よかった」



「ひっ」とか「へへ」とか昔から変わんねえなあこいつは。と呆れたように思いながら俺は脳内で別のことを考えていた。
俺が10年前に、10年バズーカ使ったのって何があった時だっけ?えーと10年前っつったらこいつがベルベル煩くて、一秒も俺の傍を離れなかった時期だ。今だって俺がベルだと分かった途端くっついて離れねえし。あー可愛いけど限界。うぜえ。…そうか思い出した。



「しし、よかったなお前バカで」

「バっ!馬鹿じゃ…ない、…いや…馬鹿かもしんないけど」

「まーとにかくよかった。そのお陰で今も超ラブラブ!」

「おー!それは良かった!」



10年前の俺は煩いあいつがちょっと限界で、10年後の彼女が誰だか気になる年頃だった訳で。でもバズーカ準備してあいつに撃つなんて芸当、どうにかしてあいつを俺から引き離す術がなきゃ出来なかった。まあそういうこと。



「お前が帰る頃にはベルフェゴール様もご機嫌だろうね」



そうして彼女は煙に包まれ、10年後の超美人が帰ってきた。彼女は第一声、こう放つ。



「私が10年前からの恋人だっていったらベルすごく驚いてたよ。私ってなんかベルに嫌われること、した?」

「ぜーんぜん。むしろ俺自身の愛を試したかっただけ!」



言えば彼女はにこりと笑った。ほんとよく騙される女だよな。だけどそんな女と10年も一緒の俺も俺だと思うけど。



(ベル!あの、10年バズーカって)
(そ、俺の仕業)
(ひどっ!なんでそんなこと)
(10年後になりゃ分かるんじゃね?ししっ)






20101101
庭咲日名子