彼は寡黙なわけではない。寡黙にしてはよく暴れるし落ち着きがないし、何より普段はよく喋るのだ。だからそんな彼が時折見せる沈黙は、場の空気ごと、そこ一帯を沈黙させる。まるで彼と空気が同一化したかのように。ぴんと張り詰める、冷ややかな空気が流れるといっても良いだろう。 比べて彼女はただの泣き虫であった。事あるごとに全てを悲観し、嘆く。敢えていうならば「積極的にネガティブ」であるのだ。わんわん泣く、という表現よりさめざめ、という言葉の似合う泣き方であった。その泣き方は時たま男を苛つかせた。 しかし彼等は恋人同士であった。どこをどう引かれあったかは定かでないが確かに、恋人同士であったのだ。彼等の共通点はただひとつ、ヴァリアーの幹部だということ。 「…なあ」 「……」 「聞いてんの」 「…は、い」 「……」 「……」 「ひとつだけ言っとくよ」 「…はい」 「死ぬな」 「……」 それは無理なお願いなのです。私はこれから死にに、死にに行くのだから。ベルはまた黙り込みました、ひんやりした空気が私にまで伝わってきます。私はさめざめと泣きました。ベルはとうとう何も言わずに部屋を出て行きました。 「ベル、ベル、ベル」 好きでした、好きでした。私は最後まで泣いてばかりでした、でも幸せでした。さようなら。 (なあ、) オレだって守ってやりたかった。だけど方法だって未来だって見つからなかったんだ。お前を愛す、一言さえ口にできないオレをどうかいつまでも嫌って。 すぐ泣く女とよく黙る男、他の恋人と同じようにしていたなら結果は変わったのでしょうか。 20100823 |