変換 「わ、ちょっと待って地震、」 という彼女の声がした。そのすぐあと、なまえの声はもう聞こえなくなっていた。通信機が壊れたのだった。ミーはなんだかしばらくぼーっとしてしまった。なんせミーはイタリアなうであってジャッポーネなうではなかったのだ。嫌な予感がした。普通の衝撃では通信機が壊れるはずもない。ヴァリアーの人間が普通の地震で「ちょっと待って地震」なんて言わない。普通シカトである。しばらくしてロン毛隊長のもはや声を超越した何かが耳元で聞こえてくるまで、ミーは一歩も動かなかった。 いや、動けなかったのだろう。 「…たいちょー、なまえ、日本で地震にあったっぽいですー」 「ああ?地震?日本ではよくあることだろ、ほっとけぇ」 「いやー、なんだかそうじゃないっぽいですーって…」 イタリアでは雨が降っていた。そのせいで任務がちょっと面倒になるので、堕王子もロン毛もボスも、みんな絶賛怒り爆発中だった。要するに地震なうななまえのことより、雨なう怒りなうコォォォなうのボスをなだめたりするほうがよっぽど大切なことなのだ。というわけでロン毛はボスの部屋のほうへ向かってしまった。しかし新米であれミーも自己主張はすべきである。手近な部屋の扉を開けて、テレビを点ける。どうやら日本行きはミーに決まりらしい。そうでなかった場合でも、無理矢理いくと決めていたが。 「ほーらめっちゃ流れてるじゃないですかー。マグニチュード8.8って世界第五位ですよー?」 誰に向けるでもない独り言。イタリアのここにも速報で報道されるほど大規模な地震。繰り返されるジャッポーネ、ミヤギ、ツナミ。奏のことだからツナミは安易に避けられるような気もしたが、行ってみなければ安心も心配もままならないような気がした。 「ボスボース。お怒りのところすみませんがちょっと、日本飛んできますねー」 誰に向けることもない。きっとボスはロン毛を殴っているだろう。そんな修羅場に当たったものなら並大抵の被害ではすまないだろう。あと時間が。相変わらずテレビでは地震やら余震の話で画面が埋め尽くされていた。その画面に一礼してから、彼はヴァリアー邸を飛び出した。 ちなみにフランに飛行機を飛ばしたりヘリを運転したりする技能も免許もない。従って活用されるのがかの便利なヴァリアークオリティである。 * 「なまえ?」 「わっフランの生霊」 「生霊じゃねーよ死ね」 助けにきたのに第一声が「死ね」とは実に不謹慎である。フランは最後に通信があった場所へ降り立ち、例の変に目立つ隊服の女性を捜していた。案外すぐに見つかるもので、彼自身ほっとしていた。 彼女といえば達者なのは声だけ。周りの音はサイレンと悲鳴と怒鳴り声。時たま微かに慟哭すら聞こえてくる。そうか、地面が揺れるだけでこんなに多くの人が混乱するのか。 「なまえー、あんたの地元ってここら辺ですよねー?」 「…そうなんだよね」 「だからここまで来てたんですね」 「うん」 「…」 「どうしよう」 最後の言葉はもうすでに言葉にはなっていなかった。こんなの変だ。自分たちは日常的に人を殺してるってのに、でもフラン自身思っていた。なまえの心配が痛いほどよく分かる。両手で顔を覆ってしまった彼女にどうすることも出来ない。抱きしめてやることくらいしか。 「ミーが捜してきます」「…」 「だからあんたは生きててください」 「だめだよ私も捜す、」 「あんたまで死なれたら困ります、ミーも死にます」 「それは困る」 「はっきり言いますね」 「好きだからね」 「ミーも愛してます」 揺れて揺れて揺れてゆれてゆれてゆれて。今こうしている間にも誰かの命が消えていく。イタリアでもきっとヴァリアーがマフィアを殺しているのだろう。だけれどそれはフランにとってとても遠い世界のことに感じられた。 「とりあえずこのカエル持っててください」 「…重いよ」 「捜すのに邪魔なんです、堕王子もいないし」 「来るかもよ」 「そんな馬鹿な」 「だってこのカエルから微かに聞こえる」 ――おおおおい!フラン!そっちの地震相当やべえらしいじゃねえかあ!! 「うっわよりによってロン毛かよー」 ――いい加減その呼び方やめろぉ!…今ボンゴレから要請が来た、俺らも今から向かうぜえ!とりあえずなまえを守ってろ!いいなぁ!! 「なまえの両親行方不明なうー。捜索行ってきまーす。チャオチャオロン毛ー」 20110314 h.niwasaki 一年前、被災した友人に書いたものです。どうまとめたらいいか全然分からずに、結局こんな終わり方で送りつけてしまいました…。一年たった今も、結局まとまりませんでした。でも無理やりこじつけてまとめるよりはいいかなと思ってそのままにしてあります。 皆様の探している、この出来事に対する「答え」も、いつか見つかりますように。 私もいまだに捜索中です。 ※8.8は当時の情報です。正しくは9.0ですが当時のままにしておきます。その他の情報もすべて当時収集したままにしておきます。 |