今日のベルはどこか傾いたやじろべえのようだ。

バランスのとれない体を華奢な足で支えて、どこか陰欝に歩いている。私はその背中を見上げてぼんやりと傘を傾けた。雨の街は静かな一帯を、またさらに深いところまで沈めて連れていく。ベルとなら何処へでも沈んでやろう、ブーツの先でいろんな雫を撒き散らしながら生きるより真っ当だ。しかしベルがそれを望まない。望まないのなら私にその選択肢はない。息ができない。

「…」

血の臭いすらそれは愛しい。私は遺体を蹴飛ばして、それからナイフを拾った。ベルは大半のナイフを現場に放って帰ってしまうのだ。その数本を拾い、眺めた。

数分前まで人を裂いていたナイフが私の手中で大人しく輝いている。それは自分にとってまるで奇妙な出来事のように思われた。笑いこそしなかったが、ナイフを軽く振って歩いた。
ベルは隊服の重みが今更に鬱陶しいようで、上着をおもむろに投げ捨てた。相変わらずふらふらと頼りない。

「…」

そういえば、このベルの「ふらふら感」というのは私にしかわからない感覚らしかった。以前雨の日、スクアーロにこの話をすると「意味わかんねえ」と一言で返された。晴れの日雨の日嵐の日…ベルはいつでも変わらず「いつものベル」であるらしい、私が気にしすぎなんだろうか。
雨音に潰されるように背を曲げ俯いて、足元を見つめながら歩く。水と血と血でてらてらと光るブーツの爪先はまた別の私が付けた戦いの跡なんじゃないか。今(ここ)の私はただ、ふらふらのベルを見つめながらバシャバシャと歩くひとりの人間だ。

「…」

傘を閉じた。

「…」

傘を持たないベルの隣まで追いついて、ふわりと左腕を掴んだ。しばらくそのまま歩いていたベルは、突然思い出したように私の肩を抱いた。宙をさ迷った私の右手はベルのポケットに落ち着く。つめたい雫が私たちの髪から滴って、もう全身が雨に染まっていった。


雨音に浸る。





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