生きるために殺しは必要不可欠だ。誰もが無数の生き物を殺しながら生きているのは隠しようのない事実で、俺らに限って違うことと言えば殺した数の話だろう。殺す対象の話だろう。だけどそれは俺らにとって全て、必要不可欠な殺しであるのだ。

暗殺部隊というのはただの表看板で、実際は殺しを好まない、(というか変に体裁を気にする)9代目ボスの意向を汲んで、俺らは文字通り「殺し屋」となっている。俺は殺せるならどっちでもいいけど、マフィアのボスなら人の死くらいもう少し鈍感になって欲しいというか。

「なあボス、クーデターなんてちっさいことやめてさ、ボンゴレから独立しちまおうよ」

白蘭が死んだ。ミルフィオーレは解体して世界に平和が訪れた。って大袈裟?でもとりあえずマフィアの大きな戦争は一先ず終結したわけで、俺らヴァリアーがボンゴレにいい加減愛想を尽かす時期でもあった。俺は昔から嫌だった。ボスが10代目になるならまだ良いかもとは思ったけど、あのジャポネーゼがなるなら論外。きっと殺しはもっと減る。ボンゴレは弱くなるよ、きっと。
ボックスなんてせせこましい武器なんかもう要らねえよ。ミンクやクジャクやベスターは勿論いい仕事をしてくれた、だけどそんなんで戦って虚しくなんねーの?なあ、お互い顔突き合わせてんのに戦うのは動物っておかしくね?俺だってもっとナイフ投げたいし直接誰かを殺したい。殺す効率は上がったかもしれないけどこの手で肉を裂けないストレスはたまっていく一方なのだ。

「悪くねえ」

しばらくの沈黙の後、ボスは静かにそう言った。きっとボスも俺と同じことをずっと前から考えてたんだろうけど。俺は組んでいた腕を解いて指を鳴らす。「さすがボス!やっぱり分かってくれると思ってた」うしし、と笑って投げ渡された書類を受け取る。ほら、やっぱり用意してんじゃん。

「手続きは全部スクアーロ。フランは残ってる任務の整理して適当に割り振っといて、来週までに全部終わらせっから。んで俺と…、くっそレヴィもかよ」
「文句を言うな!俺だってお前とやりたくてやっている訳では」
「知ってんよオッサン。俺らはデータのバックアップとってパソコン空にするだけ。で、ルッスはメイドと仲良く新しい物件とか探せってよ、あと緊急時の補佐」
「げ、一昨日じゃないですかー、今月分の任務予定届いたのって。それを一週間で終わらせるとかミー達独立する前に死にますよー?」
「バーカ死なねーよ」









夢を見ていた。文字通り夢を見ていた。あのときの俺は独立までの日数を指折り数えて待っていたのだ、今となっては死ぬまでの日数を指折り数えて待つだけだ。死ぬとは比喩かもしれない、ヴィンディチェの牢獄にぶっ込まれるまで後何日ということだ。六道骸が脱獄してからあの牢獄は精度を上げたらしい。フランでも逃げ出せるかは判らないらしかった。
ぼんやり空を仰いでいたら俺はあることに気がついた。普通の人間が食事をするように俺らは人を殺してきた。それはごく自然なことだった。俺らの生活サークルの一部であったのだ。だから俺らは早くこの世から消えるのかもしれない。それが自然な成り行きなのかもしれない。生物はある一定の心拍回数を超えると死期が訪れるという。小さい生き物は心拍が早いから早く死ぬのだという。同じことだ。俺らの殺した生き物の数は「ある一定」をきっとはるかに超えている。そんなもんだ、俺は思った。

「なあ、けっこう俺楽しい人生送ったと思うんだよね」

殺して殺して殺して殺して殺して、また殺して。俺は寝ても覚めても誰かを殺して生きてきた。それが俺の生き甲斐でありアイデンティティそのものであった。誰に何と言われようと俺にとって殺しとは呼吸をすることと同じくらい無意識だし必要不可欠だった。だからもう充分だ。これ以上俺に呼吸は出来ない。

「なーに言ってるんですかベルセンパーイ。この期に及んで人生の飾り付けでもしてるんですかー?」
「拘束されてるアホガエルに何言われてもなんも思わねー」
「こんな時になに喧嘩してんだ馬鹿どもぉ!どうせお前ら今回もどうにかなると思ってんだろ!苦労してんの毎回俺なんだからなあ!感謝しろ!そして手伝えええ!!」




もう無理だって全員がわかってた。勿論スクアーロだってわかってた。ボスだって。
だから俺らは最後に全員で足掻いてみた。いつも不可抗力を突き破ってきた俺らは思い切り空回ってみた。どうにもならない苦しみを共有した。ボスはずっと威厳を保っていたし、スクアーロはうるさかった。フランは憎まれ口しか叩けないし、ルッスは小指をたてたままだったし、レヴィは常にボスのほうを向いていた。俺はナイフを磨いた。

いつどんな瞬間に、脱出の、再起の時が訪れるのかは誰にも分からない。勿論俺にもお前にも。だからこの後俺らがどうなったかは、お前が想像してみればいいんじゃない?うしし。