血表現はないですがちょっと注意








眼球、それは体の中で唯一疲れない内臓である。だから私はいつも眼を瞼の上から撫でている。一種の儀式のように。
眼球自体、そのものに触れること、それは大して難儀ではなかったけれど、触れた瞬間それが自分の一部であることを忘れてしまいそうで怖かった。もしかしたらこれは、意思を持ったなんらかの別個体なのではないか?人に縛られ上下左右に角度を変えることしかできなくなった、哀れな下僕なのではないか?

かわいそうな内臓。私はその二つの球体をそう名付けて位置を定めた。時には愛でられ崇められ、また蔑まれ痛め付けられる。きっと異なった意思を持つ双眼。人が涙を流すとき、さて眼球は何と思うのだろう?


その疑問をぶつけるように私は、人をあやめる度、その眼球をふたつ取り出して燃やす。
疲れを知らないかわいそうな内臓。人間の呪縛から解き放たれるがいいのだ。てらてらと光るそれを見ながら私は今日も泣いている。



「目ん玉がどう思ってるかなんて知ったこっちゃねえよマジキチ」



小石を蹴る、コツンという音がした。私は泣いている。ぐずぐずといつまでも。



「ねえ、ベル、お願い」



疲れはなくともいつか終わりは来る。眼球は水分を失い収縮を始めた。しわしわの内臓、かわいそうな、内臓。ぎゅっと力を込めると驚いたようにライターの火力が強まった。涙がおちて音もなく消えていく。



「…手首、切らないで、」

「目え見えるお前に何が分かんの。それとも手本を真似た偽善者?…なぁ、もうどっかいけよ」

「昔はそんな弱気じゃなかったじゃない」

「昔とか比較しないでくんね。俺は今の俺でしかない、ほんとどっか行け。毎回任務ついてきてうぜぇし」

「ついて来ないと死ぬでしょ」

「はいはいご苦労、でもそろそろ本気だし。…だから言っとくよ、俺お前のこと好きだった」








ベルの目が見えなくなったのはいつだったのか。死にたいと呟くようになったのは今から何ヶ月前なのか。私がそれに気づいたのはベルが助けてと信号を出してどれ位経ってからだったんだろう。

あいたいあいたいあいたいあいたいあいたい…!この目であなたを見たいと双眼が叫んで霧に溶けた。ああ、私が取り戻したいのはあなたの双眼なのか、それとも強いあなた自身なのか。それは私にも分からないけれど、今、私のかわいそうな内臓は悲惨な景色しか映さない。かわいそうな内臓を助けたい。



「ねえ、かわいそうなのは私達かもしれないよ」