「すすすみません!」
「ああ、こっちこそ」

下を向いて歩いていたら、人にぶつかった。そんなことは良くあることで全て私の不注意のせいなのだが、そのぶつかった相手が問題だった。その名もなんとシリウス・ブラック。かの有名なシリウス・ブラック。誰もが憧れるシリウス・ブラック。そして私も密かに想いを寄せているシリウス・ブラックだったのだ。
顔を上げて驚いたの何のって、そもそも私はハッフルパフの冴えない女子生徒1みたいなもので彼にこんなに近付いたことなどは今まで一度だってなく、更に私は目が悪くて遠くから見ることでさえ困難だったと言うのにこんなに間近で彼を見ることが出来ただなんてこれから先こんな幸運はきっともう訪れることはないのだろうと思えるような出来事だった。

ホグワーツにはおよそ1000人の生徒がいるとして、そんな中で彼にぶつかる確率は1000分の1。そう考えると何だか運命みたいな気がしてドキドキした。
彼の後ろ姿を眺めながら荒んだ呼吸を整える。緊張しすぎて噛んでしまった、変な子だと思われてなければいいんだけれど。

次の日、やはり私はハッフルパフの冴えない女子生徒1の生活に戻っていた。昨日はずうっと自分が彼と両想いになった気分に浸っていた為、朝目が覚めた時は現実を突き付けられショックで暫く元気が出ないくらいだった。
しかし起きてみたらなあに、またいつもの生活を繰り返すだけでなんてことはない。彼とは肩がぶつかっただけ、それだけ。最初から期待することも無かったのだ。



「ナマエ、眼鏡買ったら?」

久しぶりのホグズミードではしゃいでいると、友達のナンシーが私に声を掛けた。確かにそろそろ目が見えなくて不便だと思っていたところだ。私達は少し古びたお店に入り色とりどりに飾られた洋服を横目に更に奥へと進み、お店の一角に丁寧に陳列されている眼鏡を物色し始めた。

「これなんてどう?」
「ちょっと派手じゃないかな」

彼女が手にしていた赤縁の眼鏡をかけてみたが、案の定私には似合わない。溜め息をつきながら眼鏡を外し、不意に手元の眼鏡に視線を落とした。

古いデザインの丸眼鏡だ。
そう、まさにジェームズ・ポッターくんの眼鏡のような。私は思わず手に取り、ゆっくりと眼鏡をかけた。視界がクリアになり鏡に映る自分をしげしげと見つめれば、中々お似合いだ。眼鏡というのは素晴らしい、かけるだけで気持ちも幾分か晴れやかになる。店の硝子張りのショーウィンドウから外を見ると人物から建物まで今までにないくらいに鮮明に見えた。

あっ、と思わず声が洩れてしまった。シリウス・ブラックくんが、いつも仲良しな四人組と一緒に何処かへ向かう姿がはっきりと見える。あの方向からすると、ゾンコだろうか。眼鏡のお陰で良く見える、ありがとう眼鏡。そう心で呟いた時に四人組がこのお店の前を横切った。その時一瞬、ほんの一瞬だけ、シリウス・ブラックくんがこちらを振り向き目が合った。

「私これにする!」
「ええ?本当に?」

財布からコインを握り締めてレジに突き出すと、私は一目散にゾンコへ向かって駆け出していた。今ならこの真新しい眼鏡をかけて、君に挨拶出来るような気がする。

あなたがもっとよく見えるように眼鏡をかける。ねえ、わたしの変化に気づいてる?
title … にやり



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -