赤毛のあの子は、
有名人なハリー・ポッターや学年で一番頭のいいハーマイオニー・グレンジャーといつも一緒にいる背の高い男の子だ。


私と赤毛のあの子の接点など、皆無だった。私はスリザリンで彼はグリフィンドール。決して交わらない位置に私達はいて、お互いにお互いを嫌悪し合っている。
それは絶対に守らなくてはいけない一線なのだ。けれども気付いたら私は少しだけ、そんな彼のことが気になり始めていた。
目立つような赤毛でおまけに背が高く、いつもハリー・ポッターやハーマイオニー・グレンジャーと一緒にいる。だから彼が気になったのかって?それはきっと違う。

いつだったか、ドラコがハーマイオニー・グレンジャーを「穢れた血」と罵ったことがあった。その時、彼は憤慨してドラコにナメクジを喰らわせようとして返り討ちにあった…とドラコが寮の皆に言い振らしていたのを私も勿論聞いていたのだが、(ドラコ曰くあの時のウィーズリーの顔は酷く滑稽だったらしい)周りが大爆笑に沸くなか、私の心の中でひっそりと「赤毛のあの子は友達想いで良い人」というイメージが芽生え始めていたのだ。
それからと言うもの彼のことが気になって気になって仕方がない。廊下で赤毛を見つければ、瞬時に振り返ってしまうほどだ。しかし半分の確率でそれは彼の妹だったり、彼の兄だったりする為、その度に肩を落としていた。
大体、私が彼と会話をする機会などあるはずもないわけで、私が彼を知る唯一の手段はと言うと魔法薬学でスネイプ先生が彼等をいびる時と、毎日ドラコがハリー・ポッターや彼について悪口を言っている時だけである。私はそれらを聞きながら、あの子は一体どんな子なのだろうと想像する日々が続いていたのだった。


「ナマエ!早くしないと置いてっちゃうわよ。」
「ごめん、先に行ってて!」

支度の遅い私に苛立つパンジーにそう告げると、パンジーはぶつぶつ文句を言いながら魔法薬学の行われた地下教室から出ていった。教室は一人二人と生徒達が出て行くごとに静けさが増し、遂には私一人になって教室全体が静寂に包まれる。私は先程から落としたインクの蓋を探しているのだが、中々見付からずに床を這いずり回っていた。暗く見辛い教室にしゃがみこみ目を良く凝らす。すると、数メートル先に教科書が落ちていることに気が付いた。拾い上げて中をパラパラと見ると、所々に落書きがしてあり真面目に勉強をしていないのが見てとれる。きっと魔法薬学が苦手なのだろう。

「ミス・ミョウジ、そろそろ教室を閉めたいのだが。」

突然響き渡った低い声に思わず飛び上がり振り替えると、スネイプ先生が困惑したような顔で私を見つめて立っていた。私が出るのを待っていたのかと考えると少し申し訳ない気持ちになった。

「すみません。探し物をしているのですが…」
「探し物とはこれかね?」

先生の差し出した手を見れば、しっかりとインクの蓋が握られている。私は咄嗟に大きな声で「ありがとうございます!」とお礼を言うと蓋を受け取って閉め、鞄に急いで突っ込み、それから鞄と一緒に拾った教科書も小脇に抱えて教室を小走りで飛び出した。教室が鍵をかけられたのを確認して、私は溜め息をつく。どうもスネイプ先生は苦手なのだ。

それから私が玄関ホールへ続く階段を登ろうとすると、上の方から何やら階段をドタバタと駆け下りる音が聞こえてきた。段々と近付いてくるその音に私は暫く固まっていたが、音の持ち主の姿が見えた途端に目を大きく見開いた。
なんとロナルド・ウィーズリーだったのだ。
彼は私の顔と、それから更にネクタイを見て一瞬顔をしかめたが、少し遠慮がちに「教室、閉まっちゃった?」と聞いてきた。
私が目を合わせないように下を向いて「うん。」とだけ答えると、彼は「そう。」と言ってさっき下りて来たばかりの階段を残念そうに上り始めた。
何か忘れ物をしたのだろうか。
そこまで考えた時に「あっ」と声を上げ小脇に抱えた教科書のをことを思い出した。あの時に拾った落書きだらけの教科書は彼の物だったというわけだ。私は随分上まで上ってしまったであろう彼を追いかける為、階段を勢い良く駆け上がった。

「ま、待って!」

玄関ホールの階段を上っていた赤毛に向かって出来る限り声を張り上げて呼び掛ける。彼は驚いた顔で振り向いて立ち止まった。
あんな勢いで階段を駆け上がったことがない私の心臓は、激しく脈を打ち悲鳴をあげている。私は息も絶え絶えに教科書を彼の目の前に差し出した。

「こ、これ、落ちてた!」
「あ…ありがとう。」

彼は目を真ん丸くしながら教科書を受けとると、荒く呼吸をする私に向かって「君、大丈夫?」と声をかけてくれた。
彼が私を気にかけてくれている。それだけで私の心拍数は更に早くなり、もう酸欠で倒れて死んでしまいそうだ。
それから彼は少し笑いながら「スリザリンにも君みたいな良いやつがいるんだな!」と言って、階段を上っていってしまった。


赤毛のあの子

赤毛のあの子は想像していたよりも少し単純な男の子でした。
title … 彗星03号は落下した



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -