あれからというもの、ナマエは何かと僕に付きまとう様になった。元々友達が少ない奴だったらしい。話掛けた僕が馬鹿だった。しかしそれ以上に、僕に付きまとい女子の反感を買ってより一層友達を無くしたナマエの方がよほどの大馬鹿野郎だったわけなのだが。


ナマエは頭も悪いし全く使えない役立たずではあったが、話相手には丁度良かった。だからなのかもしれない、今まで誰にも教えたことのなかった「分霊箱」のことを彼女に喋ってしまったのは。
僕達は何時ものように誰も居ない空き教室に入り会話が漏れないように保護呪文を掛けた。大事な話をする時にはこうやって時々空き教室に訪れているのだ。

「分霊箱?」
「ああ。」
「…魂を分ける、って本当にそんなことが出来るの?」

信じられないという表情を浮かべたナマエを見て気分が良くなった僕は僅かに口角を上げ、指輪を弄りながら話を続ける。

「出来るさ。でもその為には人を殺さなくてはいけないんだ。殺人だよ、殺人。分かる?」
「それくらい馬鹿じゃないんだから分かるわ。…でも一体誰を殺すつもりなの?」

ナマエは目に見えるように震えながら、恐る恐る僕に問い掛けるものだから、あの時のようにまた吹き出してしまいそうになった。彼女はあの頃から何ら変わってなどいないのだ。そしてそう、僕も。僕はホグワーツに入学してからも何も変わっていない。ただ冷たい心がぽっかりと、肉と骨で出来た身体の中に浮かんでいるだけ。

僕は表情を崩さずに小さく、でも彼女にはっきりと聞こえるような声で「君だよ」と言った。途端に彼女の震えがピタリと止み、壊れたゼンマイ人形のようにぎこちなく此方を見やる。

「じょ、冗談だよね?」
「…ああ、冗談さ。」

僕が表情を崩して笑い出せば、ナマエは安堵の息を吐き出しその場に座り込んだ。本当にどこまでも面白い奴である。

「君は殺さないよ。バジリスクで誰か適当に殺すつもりだから、暫く3階の女子トイレには近付かない方がいい。」
「分かったわ。」
「…それにしてもさっきの顔は最高だったよ。」

「やめてよ!」と顔を赤くして怒る彼女を尻目に、久しぶりに僕はお腹の底から笑っていた。

彼女は何も変わっていない。
しかし僕の中では何かが――何かと問われても自分でもよく分からないが――変化しているような気がした。ただ変わりたくない、知りなくないという気持ちがその変化を制圧しているように思える。
僕は変わるつもりなど無かった。

認めないそんなの認めない
title … mutti



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