「本当に信じられない!今度こそもう我慢出来ない!!」

私がフレッドに向けて張り上げた大声はグリフィンドールの談話室に勢い良く響き渡った。それに対して隣でソファーに腰掛けているジョージが日刊預言者新聞を広げながら「これでナマエの"もう我慢出来ない"を聞くのは何回目だ?」と言うと、続けてリー・ジョーダンが「ざっと通算1016回目ってところかな?」と茶々を入れる。
「いや、1017回目だね」
事も無げにそう言うフレッドに「そんなことどうでもいい!」と私は呪文学の教科書を掴み、フレッドに向かって投げ付けた。それをフレッドは軽々と避けたので、グリフィンドールの男子軍は「おおー!」と大きな歓声を上げた。
リーは更に羊皮紙をメガホンのように丸めながらクィディッチの試合実況さながら「おーっとナマエ選手!勢い良く決めたー!!しかしフレッド選手それを華麗に避けるー!!」と煽る。

「やめなさいよ、リー。」

アリシアと共に暖炉の前でアンブリッジから出された宿題を仕上げていたアンジーが顔を歪めながら此方に振り向いて注意をした。当のリー本人はやれやれと肩をすくめて丸めていた羊皮紙をソファに放り投げた。(恐らくあれもアンブリッジの宿題だと思われる)

「フレッドもジョージも、ずる休みスナックの研究なんかする前に女心の研究をするべきね!」
ここぞと言わんばかりに、ハーマイオニーが眉毛を吊り上げながらうわずった声でそう言った。隣に座るジニーも呆れ顔で頷く。
今や私とフレッドを取り巻き、男子vs女子の図が成り立っていた。

「あなたが7年経ったって何にも変わってないことがよーく分かったわ!」

私はフレッドに吐き捨てるように怒鳴りつけ、談話室から飛び出した。行き先は決めていない。兎に角もう出て行ってしまいたかった。こんな遅い時間に学校内を出歩いているのがフィルチやアンブリッジに見つかったら、何を言われるやら分からない。でももうそんなのどうでも良いと思っている自分がいた。
それもこれもあのバカ双子のせいだ。フレッドもジョージも、一緒にお店を始めるから学校も卒業する気は無いと言った。私はそれがショックだった。私達は一応付き合っているんだから、少しくらい相談して欲しかったのだ。昔から私は彼の中で蔑ろにされている様な気がしてならなかった。

追いかけても来やしないフレッドに軽く悪態をつきながら特に行く宛もなくぶらぶらと6階を歩きまわっていると、廊下の突き当たりにピンクのガマガエル……いや、アンブリッジが此方へ曲がろうとしたのが見えた。アンブリッジはこことは反対の塔にオフィスがあるはずなのに何故いるのだろう?さっきまでは見つかってもどうでもいいなどと言ったが、実際問題あいつに見つかるのはかなり困る。
私は予期せぬ出来事に硬直してしまいそのまま動けなくなっていた。しかしすぐに何者かによって後ろに力強く引っ張られ、私はちょうど近くに立っていたおべんちゃらのグレゴリー像の裏に押し込まれた。

「あら、誰かと思えばフレッド、あなた追いかけてきたの?」
「アンブリッジが尻尾掴むのに躍起になってるっていうのに歩き回るバカを捕獲しに来たんだ。しかし残念、僕はフレッドじゃなくてジョージだ。」

小声で囁きながら像の陰からアンブリッジが通り過ぎるのを気にするジョージと語るその彼は、紛れもなくフレッドだった。いつもこうだ。都合悪くなるといつもジョージのふりをする。しかし17歳にもなってそんな嘘は私に通用しない。

「オッケー、分かったわジョージ、それじゃあフレッドにこう伝えていただけるかしら。ナマエは永遠にあなたの元から去ります、アディオス・アミーゴ……」

そこまで言いかけた時、ジョージもといフレッドは私の有り余る頬を大きな手で両サイドから勢い良く挟んだ。その顔は何故だか少し怒っている様に見える。ヘイヘイちょっと待ってくれ、怒りたいのはこっちの方だ。

「ひょっとやめなひゃいよ」

そのまま負けじと睨み返せば、フレッドは暫く私の顔を見つめ、それから私の可笑しな顔に堪えきれずに吹き出して笑い始めた。「ちょっと!静かにしてよ!」とグレゴリーの像から顔を覗かせて廊下を伺うと、アンブリッジの姿はもう無かった。

「アンブリッジに見つかったら私まで退学になっちゃうでしょ。まぁ?あなたは?学校を辞めるみたいだからいいんでしょうけど?」
「そしたら責任を取るよ。」

嫌味ったらしく言った私に対してフレッドがまたしても事も無げに言うものだから、私は理解が追いつかず「はぁ?」と漏らした。また得意のおふざけかと呆れながらフレッドを見れば、いつになく真剣な眼差しで私を見つめている。それがなんだか見慣れなくて、そわそわした。

「……さっきナマエが出て行った時に真剣に考えたんだ。俺達が学校辞めて、これからのこと真剣に。その時に、やっぱりナマエがいないこの先なんて考えられないと思った。ナマエは怒ってても俺のこと絶対に見捨てたりしないからーー」

「ナマエも俺のいない人生なんて考えられないだろ?」と、フレッドはまたしても私の頬を掴んだ。

「……まあね。」

やれやれと頷く私をフレッドは憎たらしい笑顔を浮かべてぎゅっと抱きしめる。全く、おべんちゃらのグレゴリーの像の裏でプロポーズなんてロマンチックさの欠片もない。それがまたフレッドらしいというかなんというか。私はわざとらしく大きくため息をつくと、「じゃあこれからのこと、また明日ちゃんと話しましょう」と言った。


「オーケー、それじゃあロンからキーパー用のヘルメットを借りなくちゃなあ!」

そう言ってフレッドはニヤッと笑った。
うん、私はきっとこの人から離れられないのだと思う。


stay stay stay
song by … Taylor Swift






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