最初はただの好奇心だった。
ねっとりした黒髪で、猫背で、陰気な彼ーーセブルス・スネイプがどんな人間なのか。何を感じて、何を見て、何に興味をひかれるのか。この私の探究心と異様な執着心は、まさにスリザリン寮生ならではなのかもしれない。
彼はいつも一人でいることが多かった。入学当初から闇の魔術に卒倒してるだとかでスリザリンの中でも浮いていたからだ。そんな彼が、グリフィンドールの美人なリリー・エバンズと幼馴染で仲が良いことも初めて知った時はかなりの驚きだった。たまに一緒にいるところを見かけたが、こんな悪い意味で浮いている彼とそれでも仲良くする彼女は優しいのか、それともただのお人好しか、はたまた馬鹿なのか。
そんな感じで兎に角彼は私にとって好奇心をくすぐる存在だった。もっともっと彼を知りたい、そう思った。
だから魔法薬学の授業で彼のいる机に誰もいないのを見て、チャンスだと思った私はすぐさま彼の隣に向かった。

「隣に座ってもいい?」

耳に髪の毛をかけながら小首を傾げてそう尋ねれば、大体今まで男の子はみんな顔を赤らめて挙動不審になる。私の必殺技だ。しかし問題のセブルス・スネイプはどうだろう。全くこちらに見向きもせずにただ頷いて、はい終わり。ちょっとはこっちを見なさいよ。
イラっとした私は「今日ってどこだっけ?」と教科書を開いてぐいっと一気にスネイプに詰め寄った。すると流石の彼も顔を思いきりしかめて、私の顔を凝視してきた。まさに「何なんだ貴様は」という表情である。

「陶酔薬だ。それから僕に近付くな。」

素っ気なくそう言うと、彼はまた前を向き直ってしまった。この作戦も失敗か。つくづく分からない男である。と同時に、私の闘争心により一層火が付いてしまった。私はなんとしても、絶対に、セブルス・スネイプを振り向かせてみせると決めた。

しばらくするとセイウチさながら丸々としたスラグホーン先生が教室に入ってきて陶酔薬の概要を説明した後、各々調合の準備に取り掛かった。隣で天秤に錘をのせているスネイプを横目に見ながら、チャンスを伺う。スネイプが一瞬教科書に目を移した。今だ。その瞬間、私はぶつかったフリをしてわざと自分の鍋を机にぶちまけた。隣のスネイプは勿論、教室中の誰もが私を見た。

「おお、ナマエ、大丈夫かね?」

いつもは赤ら顔のスラグホーン先生もこの騒動に青ざめた顔で急いで近付いて来る。それを見てしめたと思った私は目に涙を浮かべて「少し鍋の中身が手にかかってしまって……」と言えば、スラグホーン先生はこの世の終わりだとでもいう様な表情を浮かべた。勿論、私はちょっとだけ薬品が体にかかるようにちゃんと計算をして鍋をひっくり返した為、実際は軽く火傷しただけで全然平気なのだが。

「それは大変だ。今すぐ医務室に行かなければ!」
「はい、あの、ミスター・スネイプが一緒に行ってくれるみたいなので、先生はどうぞ授業を続けて下さい。」

その言葉にスネイプが初めて、しかめっ面でも真顔でもなく驚いた顔をした。スラグホーン先生はそれを聞くと「ああ、それは助かった!セブルス、頼んだよ!」といつもの赤ら顔に戻って嬉しそうに言った。
こうなってしまったらもう行くしかないと、スネイプは渋々私と医務室に行く為に鍋の火を消す。そして私のことを心底嫌悪するような顔で「行くぞ」と言って歩き出した。

医務室に着くと、マダム・ポンフリーが私の火傷を見てくれた。マダム・ポンフリーは「大したことないわね、全くスラグホーン先生ったら大袈裟なんですから。」とブツブツ言いながらベッドの縁に腰掛ける私の手に薬を塗って更に包帯でぐるぐる巻きにすると、「今の時間の授業が終わるまではここでお休みなさい。そうすればスラグホーン先生もきっとご満足していただけるでしょう。」と肩を竦めて出て行ってしまった。

「大したことないなら僕はこれで。」

マダム・ポンフリーの後に続く様に出て行こうとするスネイプの手を私は掴んだ。そんな私を彼は嫌悪と困惑が入り混じった表情で振り返る。ねえ、この手が私の身体に触れたら、あなたはどんな顔をするの?どう思うの?

「二人きりだね。」
知りたい。知りたい。

手を私の方まで引き寄せるのと同時に、彼が動いた。私の顔の目の前に、彼の顔がある。唇と唇が触れている。

「……これで満足か?」

呆気に取られている私に彼は吐き棄てるように言った。最後に残ったのは彼の軽蔑するような表情。

接吻と呼ぶにはそれは余りにも粗雑で
ただの肌と肌を重ねる行為






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