僕は今にも泣き出してしまいそうなナマエを前にして、初めて彼女と話した時のことを思い出していた。そういえばあの時も彼女は泣いていたような気がする。
あの日は確かクリスマス休暇でほとんどのホグワーツ生が帰宅する中、スリザリンに残ったのは僕と彼女、あとは数人の生徒だけだった。中でも彼女…ナマエ・ミョウジは同じ学年だったこともあり、何かと気にかけて(いる振りを)しなければならなかった。しかし、どれもこれも自分の信用・信頼を集める為であるから多少の苦労も惜しむまい。
だから僕はその時もいつもの様に周りの皆を気遣える優しい少年を演じ、泣きべそをかくナマエに話し掛けたのだ。


「どうしたんだい?」

誰もいない談話室の暖炉前でしゃがみ込むナマエの顔を覗き込む様にすれば、涙でぐちょぐちょな汚ならしい面をしたナマエが顔を上げ、小さな声で「蛇が…」と呟いた。彼女の手を見れば随分と衰弱した蛇が握られている。その蛇は僕の気配に気が付くと、最期の力を振り絞り頭を上げて『この手を離すように言ってくれ』と僕に弱々しく言った。

「とりあえず苦しんでいるから離してあげた方がいいと思うよ」
「…そうなの?」

彼女は素直に手を離し、蛇はぼとりと音を立てて床に落ちた。あまり乱暴に扱うなよと眉根を寄せたが、彼女はそんなこともお構い無しに蛇をべたべた触り続ける。
蛇はまたもや僕に切に訴えかけてきた。

『こいつに捕まってから私はもう散々だ、餌もまともに与えてくれやしない』
『何を食べていたんだい?』
『蛙チョコレートだよ!』

それを聞いて僕は驚き彼女を見たが、それ以上に驚いた顔で彼女は僕を見ている。僕が口を開くより先に、興奮した様子で彼女は話し掛けてきた。

「リドルくんってパーセルマウスだったんだね!」
「ああ、そうだけど…」
「じゃあこの蛇を治してあげて、お願いリドルくん!」

僕は優しい少年を演じているのも忘れて思わず「は?」と言う一文字が口から零れた。この女は何を言っているのだろうか。全くもって話が読めない。

「だから、治せるんでしょ?パーセルマウスは蛇を…」
「その前に君はこの蛇を何時捕まえたんだい?」
「えっと、1週間前かな」
「その間餌は何を与えていた?」

僕の気迫の籠った問いかけに彼女は戸惑いながらも考える素振りで暫く唸り、それから「蛙チョコレートとか百味ビーンズかな」と能天気に答えた。またしても自然と口をついて出てしまった「は?」という僕の一言に、彼女は「駄目だった?」と再び目に涙を溜めて狼狽えている。

「駄目に決まっているだろう。これで分かった、病気の原因は全て君だ。蛇は蛙チョコレートも百味ビーンズも食べないんだよ。普通に考えれば分かることだ。」
「…だって私はパーセルマウスじゃないから蛇の気持ちなんて分からないもの。」
「分からないなら飼わない方がいいと思うよ、その方が蛇の為でもあるわけだし。」

僕は苛々してわざと刺のある言い方をしてやった。すると案の定彼女は小さくなり、涙を堪えるかのように震えだした。その姿はまるで蛇に睨まれた蛙の様で、実に滑稽である。今にも吹き出してしまいそうな笑いを必死にかみ殺していると、突然「…だったら、」と縮こまっている彼女が呟いた。

「…だったら?」
「…だったら…リドルくんがパーセルタング教えてよ!」

「嫌だよ、そんなの。」僕が即答すれば、彼女は「リドルくんばっかりズルい!」と喚いた。本当に喧しい女だ。


分からず屋のまま死ぬなんて

パーセルマウスだからといって蛇を治せるわけではないんだよ。



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