「死ねばいいのに」

それが彼女の口癖だった。気に入らないことがあればいつもその言葉を口にする。そんないちいち貴女のためにみんな死んでいたらすぐに人類滅亡してしまうのではないか……というくらいに、とにかくこの言葉を使うのだ。高度なブラックジョークではなく、彼女の場合本気でそう言うのだから恐ろしいものである。

「……死ねばいいのに」
「またそれですか?」

不機嫌な顔をしたナマエは、何か前方を睨み付けながら絞り出すように呟いた。呆れたように彼女を見た僕の目に、強く握りしめすぎて白くなったナマエの拳が入る。何か相当嫌なことがあったらしい。彼女の手に自分の手を重ねた僕は、何だかんだ言いながら彼女に甘いのだと思う。

「何があったんですか?」
「知らない、言いたくない」

頑なに前を見続けるナマエを振り向かせようと彼女の肩に手をかければ、ナマエは僕の手を思い切り振り払った。

「レギュラスには関係ない」
「関係なくないよ」

手を力強く掴み、目を見つめる。ナマエは相変わらず僕を睨み付けていたが、僕は構わず彼女にキスをした。途端にまたもや勢い良く腕を振り払われ、倒れ込む。彼女はと言うと、目に涙を溜めて、真っ赤な顔で一言、

「死ね」

と言った。
ああ、やってしまったな。僕は唯一彼女に「死ね」なんて乱暴な言葉を使われたことが無かったと言うのに。僕はゆっくりと立ち上がると、出来るだけ冷めた声で「言われなくても僕は僕の寿命を全うして死ぬつもりです」と言った。

ナマエとはそれっきり。話さなければ、目も合わせなくなった。彼女だって突然キスをするような男なんかと二度と顔も合わせたくないだろう。僕は彼女に「死ね」と言われるに値する人間なのだ。
そしてそれから数年後、僕は本当に死んでしまった。







突然届いたレギュラスからの手紙に私は驚いた。彼から手紙が届くなんて思いもしなかったのだ。
何故なら私は彼に酷いことを言ってしまったから。私はあの日後悔と悲しさで一晩中泣いたものだ。

そんな彼からの手紙は「貴女が僕からの手紙を受け取る頃にはきっと僕は死んでいることでしょう」という一文から始まっていた。

「理由は言えません」そう書かれた文字を見つめる私の視界は既に歪み、手は小刻みに震えている。そして次の文章を読んだ時、我慢していた涙が止めどなく溢れていた。今更後悔しても遅いのに、何度も何度も嗚咽混じりに「ごめんなさい……」と呟く。
私のその声だけが、虚しく部屋に響いていた。









「ただ僕が言えるのは、貴女のことがずっと好きだったということだけです」



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