※現パロ/原作無視




ハーマイオニーがロンと付き合い始めたらしい。
「らしい」というのは友達づてに聞いたから定かではないという意味の「らしい」だ。彼女は親友の私にそれらしいことを一切相談もせず、彼と何処かに住居を移すのだそうだ。とは言え私達はもう立派な大人。誰に相談せずとも結婚だって出来る。それは私にだって分かっていることだから責め立てるつもりはない。ではこの胸のもやもやは何なのだろう?


「きっと長く一緒にいすぎたから変な執着心があるんじゃないかな?僕も最初はあの二人が付き合うって聞いて奇妙な感じだったよ」

ハリーは肩を竦めながらコーヒーにミルクを流し入れた。彼がスプーンを回す度にぶつかり音を立てる氷や、鮮やかに混ざり合うミルクとコーヒーを見つめながら上の空で相槌を打つ。彼はそれを知ってか知らずか、砂糖を入れながら話を続けた。

「まぁ僕達も大人だ。ナマエも素直に祝福してあげたらどうだい?」
「……ハリーってガールフレンドいるんだっけ?」

突然私の口から飛び出た言葉に目を見開くハリー。それから眉根を寄せるとコーヒーカップからスプーンを抜き取り、考えるように慎重に言葉を紡ぎ始めた。

「…ああいるよ。君もそれはよく知ってるだろう?もし君が僕と付き合いたいならそれは…」
「別にハリーを好きなわけじゃないわ。ただ言ってみただけ。本当は誰でもいいの」

そう言って笑う私を見て「そんなことを言うなんて君ならしくないよ。まさかナマエ、ロンを…」と小さな声を絞り出すハリーはまるで雷に撃たれたような表情だ。そんなハリーを一瞥した私は自嘲気味に口許を僅かに緩めると、「違うわよ。」と呟いた。

「当て付けなの。ただ私はハーマイオニーに……」
「……そんなことをして本当にハーマイオニーが戻ってくると思っているのかい?」

「ええ、思っているわ。」
思っているに決まっている。彼女はきっと戻ってくる。そんな意志を込めてハリーを見つめれば、彼は眉間の皺を更に増やし「それじゃあ君はまるで……」と狼狽えるように呟いた。そんな彼の顔の前にその先を言うのを制するように手を突き出すと、私は鞄を肩にかけて立ち上がった。

「何処へ行くんだ?」
「……話をつけにいくのよ、ハーマイオニーと」

後ろで何かを言ったハリーの声はもう既に耳に届かない。私の頭の中はハリーの先程の言葉でいっぱいだった。そう、ハリーの言う通りそれじゃあまるで私はハーマイオニーのことが……。
そこまで考えて、はっとした私は思わず立ち止まった。なんだ、胸のもやもやの原因はこれだったのか。私は彼女を愛しているんだ。

その気持ちに気が付いた時、心が締め付けられるのと同時に目頭が熱くなるのを感じた。自分の本当の気持ちに気付けて嬉しいんだか切ないんだか、色んな感情がぐるぐると頭を巡っていく。よく気持ちの整理がつかない。しかしこんな道端で泣いていてはダメだと、指先で目頭を押さえつけて大きく息を吸い込む。すると涙が少しだけ引っ込んで、自然と心が軽くなった気がした。
私は行かなくちゃ、伝えなくちゃならないんだ。
堅いコンクリートをハイヒールで踏みしめ、ハーマイオニーの元へ歩みを進めた。



「やぁナマエどうしたんだよ」

玄関先に現れた数センチ上にある赤毛の鼻面を殴ってやりたい衝動をぐっとこらえる。「ハーマイオニーに会いたいの」と呟くと、これまた苛つくとぼけ顔で「じゃあ中に入れよ」とロンは宣った。

「二人で話したいの」
「……なんだよそれ、僕は邪魔者ってわけか。ああもう分かった、呼べばいいんだろ!」

私が睨み付ければ、渋々とハーマイオニーを呼びに行ったロン。その背中を見送り、先程よりも僅かに傾いた太陽を眺めていると「ナマエ!」というハーマイオニーの声が聞こえて私は顔を上げた。


「……ハーマイオニー」
「ナマエごめんなさい……その、このことを相談しなくて……怒ってるわよね……」
「いいの」

眉を下げて俯き気味に呟いたハーマイオニーに微笑みかける。私が今話したいのはそんなことではないのだ。彼女を責めるためにここにいるのではない。

「私、離れてみて初めてあなたの大切さを知ったの。それは友達以上の物よ。あなたがハリーやロンに感じるような……」
「それは私も一緒だわ!」
「……ううん、違うの。私はそれ以上なの。あなたが答えられないような……」

そこまで言葉を発し、息がつまってしまった。頭の良いハーマイオニーのことだから、私が何を言いたいのかきっと勘づいたはずだ。私は怖くて顔を上げられずにいた。
ふと俯いた視界に彼女の白くて細い手が見え、思わず顔を上げる。
その瞬間手に温もりを感じ、握られているのだと気が付いた。

「……ハーマイオニー」


静かに彼女の名前を呟く。
ハーマイオニーは何も言わず、ただ手を握りながら泣いているだけだった。


きっと、これでいい。