今目の前に立っている穢らわしいマグルの血が全身を循環したこの女は頭が狂っていた。
 床に落ちた食べ物を食えと言えば犬のように這いつくばって食べるし、靴を舐めろと言えば貪るように靴裏まで舐める。恐らく私が死ねと言えば喜んで死ぬだろう。
そんな退屈で虫酸が走るような女だ。
 こいつの立場はと言うと死喰い人の中では言うまでもなく一番格下、さらに言えば屋敷しもべ妖精以下の扱いだった。こんな穢れた血を死喰い人に入れてやっているのは紛れもなく私の心の寛大さとこいつの気色が悪いほどの忠誠心のお陰であり、つまり私が見限った瞬間にこいつは死ぬ運命にあるのだ。


「我が君…これは一体どういうことなのですか?」
「どういうことか?見て分からないのか。貴様は今から死ぬのだ」

 周りを取り囲んだ死喰い人に笑いが起こる。その中心で私に杖を向けられ驚いた顔をしているナマエは心無しか興奮し、紅潮しているように見えた。

「それは我が君の為になるのですね?」
「ああ、私の為だ。貴様が見せしめとして死ねば死喰い人の士気も高まる。光栄なことだろう?」

 「はい」と上ずった声で答えたナマエを見て、またもや死喰い人の中から静かな笑いが起こる。こうも素直だと殺しがいがなく退屈なものだ。これでは害虫を殺すのと変わりがない。私は苛々しながらナマエに近付き、それからナマエの上に跨がった。首に手をあてがえ力を加えれば、こいつはまた興奮に満ち紅潮した表情を浮かべる。
 本当に不快な女だ。私が望んだものからかけ離れすぎている。私はとたんにこいつから興味を削がれ、無心で呪文を唱えていた。その時のこの女の表情は、今までに見てきた表情の中でも最高潮の興奮と狂喜で満ち溢れ、気味の悪いものだった。その上こいつは死ぬ間際に耳を疑うような言葉を呟いたのだ。



「嗚呼、素敵」



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