耳元でぶすりと鈍い音が、鼓膜を震動し神経を渡り、脳が「痛い」と指令を下す。僅かに滲み出た赤い液体に思わず貧血を起こしてしまいそうになった。
例え目の前で人が死のうと磔にされようと心動かされない私だと言うのに、自分のことになった途端にこれだ。そうして自嘲するように口元を歪めると、真新しいピアスを愛おしげに見つめた。手鏡に映ったピアスが月明かりを受けてキラリと光っている。

明日は卒業式だった。卒業の記念に何か思い出をと、私は初めてピアスを開けたのだ。耳たぶに一つだけ。痛みはなかった。
何度か色んな角度からピアスを鑑賞した後、私はベッドに潜った。


「おはようナマエ。」
「おはようトム。」

朝食を終えて玄関ホールを横切っている時、トムに出会した。彼は相変わらずきちっとした、全く隙を見せない服装をしている。卒業式だからと久しぶりにきちんとした着こなしをしている私とは大違いだ。それから私は彼が視線を私の耳元に送っていることに気が付いた。

「それ、どうしたんだい?」
「あ、ピアス?昨日開けたの、卒業記念よ。」

「どう?」と自慢気に見せ付けると、トムは呆れるように肩を竦めただけだった。まったく、トムは頭が固くて駄目だ。さすがヘッドボーイなだけある。まぁ、首席=石頭というわけではないのだが。

「トムも何か思い出に残ることをしてみたらいいのに。」
「僕はもうすでに思い出に残る、大きなことを成し遂げた。」

そう言って、怪しげな笑みを浮かべた。こういう表情をする時は、大抵悪いことに決まっている。
それから彼は急に何やら思い付いたような顔をして、又もや奇妙な笑みを張り付けながら私を見た。

「そうだ、やっぱり僕も思い出に残るようなことをするよ。」

不意に彼の手が私の耳へ伸びる。次の瞬間、私は声にならない程の激痛を耳に感じ思わずその場にしゃがみこんだ。耳を抑えながらトムを見上げると、彼は口元に冷酷な嘲笑を浮かべて私を蔑む様に見下していた。

「君と僕の思い出だ。」

血に染められたピアスが彼の手に握られている。絶えず耳から滴り落ちる血液で自身の手を真っ赤に染めながら、彼のその残忍で艷美な色気にやられたのか、はたまた貧血か、私はその場に倒れた。




ピアス



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