ぎりぎりぎりぎり。

「ねぇそれ止めてくれない?」
「え?僕何か変なことした?」
そう言いながらも相変わらず歯軋りを続けるハリーに、私は手元の羊皮紙に視線を向けたまま眉根を寄せて「それよそれ、歯軋り。」と呟いた。「勉強に集中出来ないじゃない。」
途端に音がピタリと止み、談話室に静けさが取り戻される。今や私の羽ペンの規則的な音が響くだけだ。そんな沈黙が続く中で二行目の頭の文字を書こうとした時、ちらりとハリーを盗み見た。そこで思わず私は羽ペンを動かすのを止めてしまった。なんとハリーがとんでもなく恐ろしい顔をしていたのだ。何かを恨むような、そして自分の世界に入り込んでしまっているような雰囲気である。しかし音が止まったことに気が付きこちらを見たハリーのその表情はいつも通りのハリーに戻っていた。

「ハリー、もしかしてなんだけど…今のこと怒ってるの?」
「…いや。え?僕怒ってるように見える?」

先程歯軋りを注意した時の様にハリーが不機嫌さと困惑が混ざった顔でまた質問するものだから、私は正直に言うべきか迷った。もし正直に言ったら、ハリーがなんだか今にも怒り出してしまいそうだからだ。結果、私の返答は曖昧な物になってしまった。

「…僕、無意識だったんだ。」
「それは何となく分かるよ。でもどうしてそんなにイライラしているの?O.W.Lが近いから?」

ハリーの目を真っ直ぐに見つめながら聞くと彼は気まずそうに私から目を反らし、それから自分の指を見つめて遠慮がちに「それもあるけど…」と呟いた。
ハリーの指は彼の膝の上でもじもじと奇妙に動いている。私達は暫くそれを見つめて黙っていた。

「…こんなこと本当はナマエに言うべきじゃないんだろうけど。」
「気にしないで言ってみて。」
「うん。…僕、最近色々あって、アンブリッジのこととか。」
私は小さく相槌を打った。
「…その色々なことがストレスになって、なんだか苛々しちゃうことが多いんだ。だからさっきも考え事をしていて…」

ハリーがやっと私の目を見た。緑色の瞳に複雑な色がちらついて見える。私には計り知れない悩みが彼にはあるのだろうとなんとなく本能的に感じ取った。それからハリーは大きく伸びをしてまた私から目を反らし、自嘲気味に笑って言った。

「それに、女の子とも上手くいかないし…」
「女の子?」
「チョウだよ。彼女ったら…」

ハリーがそこまで言い終わらないうちに、私はわざとらしく教科書を閉じていた。ハリーが訝しげに私を見たがお構いなしだ。
「私もう寝るわ。」
羊皮紙を丸め、インクの蓋を閉めると、私はハリーにそう告げた。少し言い方が冷たすぎたかもしれない。一方ハリーは、突然の私の行動に訳がわからないといった表情だ。

「ナマエ、話を聞いておいてそれはないじゃないか。」
「人生相談には乗るけど恋愛相談には乗らないのおやすみなさい」

一気にそう捲し立てると、くるりと回れ右をして女子寮へ歩き出していた。何故こんなに苛々するのかは、自分でちゃんと理解しているつもりだ。きっと彼には一生掛かっても分からないだろう。
後ろでハリーが何かぶつぶつ言っているのを聞きながら、私は今初めて自分が歯を擦り合わせていたことに気が付いたのだった。




ぎりぎりぎりぎり



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -