息苦しさを感じて目が醒めた。
今何時だろう?凄く苦しい。
よく目を凝らして見れば、暗闇の中からぼんやりと輪郭が浮かび上がり、ナマエが自分の上に跨がり首に手をあてがっているのが見えた。僅かな月明かりに照らされたその表情は驚く程に哀し気で、それでいてとても美しく見える。
暫く黙って見つめていると、ナマエは静かに口を開いた。

「起きてるんでしょう?何で抵抗しないの。」
「…君が綺麗だからだよ。」
「今さら口説かないで頂戴。」

彼女はそう言うと首からあっさり手を離し、相変わらず跨がったまま意志の読めない表情で私を見つめた。

「鍵が開いてたよ、無防備ね。」
「こんなみすぼらしい男の家に誰が侵入するって言うんだい?」
「私?」

そう言ってナマエはいつもの様にくすくすと笑い出した。いつもならくすぐったく感じるその笑い方も、今夜は何故だか寂し気だ。
彼女はそれから不意に窓の外に視線を移した。

「明日も来ていい?」
「すまないナマエ、明日からもう暫くは会えなくなるんだ。不死鳥の騎士団が…」

そこまで言うと、彼女は依然として視線を窓の外に向けたまま興味がないとでも言うように「ふぅーん。」と一言相槌をうった。

「ナマエ…」
「もう少しで満月ね。」

ナマエは話を遮るように呟き、視線を此方に向けた。その瞳には何も映っていないように見える。
それからゆっくりと、もう一度、細い腕が私の首に伸びた。

「死ぬ前に殺してやろうかと思ったんだけど、狼になられちゃ堪んないから。私もう帰るわ。」
「ナマエ、待ってくれ、君は一体何を…」
「さようなら。」

手が離れ、輪郭がまた暗闇に溶けていく。最後に月明かりに照らされ僅かに見えたのは、無理矢理、痛々しげに笑顔を浮かべる彼女だった。
そんな彼女を抱き締めることも、私には出来ない。


全て夢?



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