彼女は最近とても悩んでいるらしい。
なんでも胸が傷んで夜も眠れないんだとか。胸と言っても心臓器官の方ではなく、ハートの方だ。それが締め付けられるように痛み、苦しみ、もがき、寝不足な日々が続いているらしい。それはそれは、まるで磔の呪文でもかけられているようなのだと。(彼女が磔の呪文を受けたことがあるかどうかなどというのは愚問である。)
その悩みを僕に打ち明けるのは一向に構わない。何故ならば答えはただ一つ、「恋」だからだ。問題は相手が誰なのかなのだ。

「恋?」
「恋です。」
「誰に?」
「僕もそれを君に聞きたい。」

そう言うとナマエは「うーん」と唸りながら考え始めた。時折ぶつぶつと、「セブルス・スネイプ…いや、ないないあんな髪の脂ぎった男…」などと言う声が漏れていた。目の前にセブルス・スネイプ本人が座っているというのに。

「お前、わざとなのか?」
「は?あ、セブルス!いたんだ!どうもこんにちは〜」

セブルスは額にうっすらと青筋を立てナマエを睨み付けると、そのまま黙って食事を再開した。
ナマエはというと、全く悪びれる素振りもなく再び考え耽っている様子だ。

「はぁダメだ、全然分からん。」
「そうですか。主にどういう時に発症するのかは分かりますか。」
「分かります。主に夜寝る時、何故かセンチメンタルな気持ちになる時に発症します。」
「何故センチメンタルになるんですか?」
「それは宿題を忘れた時にレギュラスに見せてもらおうとしたら拒否されたことを思い出したり、大量の宿題を提出日ギリギリになって泣きながら図書館で勉強したことを思い出したり…あ、あの時は宿題手伝ってくれてありがとうねレギュラス。」

僕は思わず目をしばたいだ。なんて単純明白なこの問題に、彼女はこんなにも答えを出すのに時間がかかっているのだろうか。

「答えが出たじゃないか。」
「え?…はっ!まさか原因は宿題…!」
「はぁ、もういいよ。」

呆れ顔でナマエを見れば、彼女はとても素晴らしい笑顔で僕に笑いかけた。きっと彼女はわざとやっているに違いない。


少女の病に春はくるか
title … にやり




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