ドラコ・マルフォイ
パパとママに連れられて、夏の間にマルフォイさんのお家へ行った。マルフォイさんのお家はとても大きくて、おとぎ話に出てくるお城みたいだった。植木も綺麗に剪定されていて、庭小人とは無縁の洗練された素敵な庭だ。お城の様な玄関までたどり着くのに、沢山歩かなければいけなかった。
「こんにちは、"マルポイ"さん」
「あら、噂通りのかわいいお嬢さんだわ」
「すみません、娘はまだ英語が苦手でして……」
"マルフォイ"と上手く言えずに赤面すると、マルフォイ夫人が「大丈夫ですよ。ほら、こっちで一緒にドラコとお勉強しましょう。家庭教師の先生がいらしてるの」と笑顔で私の手を引いた。
手を引かれながら後ろを振り向くと、パパとママが微笑みながら手を振っている。私はマルフォイ夫人に着いて広い玄関ホールを横切り、階段を上り、長い廊下を歩いた先で、やっと部屋に辿り着いた。コンコン、と夫人がノックすると、中から「はい」と老人の声がした。
「オズバート先生、お話していた子がいらしたの。一緒にお願いしてもいいかしら?」
「おお、勿論ですよ!どうぞどうぞ」
少しだけ開けられた隙間から、オズバートと呼ばれる老人が顔を覗かせてしわくちゃな顔で私に笑いかけた。それからマルフォイ夫人に背中を優しく押され、おずおずと中に入った。
そこは客間のようなところだった。磨きあげられた大きな窓を、緑と黒を基調としたロココ調のカーテンが縁どっている。大理石で出来た大きな暖炉があり、その近くに高級そうな革張りのソファが二つ、これまた高級そうなテーブルを挟むように置かれている。そのソファの一つに座っている少年こそが、あのマルフォイさんの話に何度も出てきたドラコ少年その人だった。
「こんにちは」
私が極力笑顔を作ってドラコにそう言うと、彼の色白な顔がサッと一瞬赤くなった。
「さぁ、お嬢ちゃん、ドラコ坊ちゃんの隣に座って」
言われるままにドラコの隣に座る。ドラコが隣に座った私をまじまじと見つめてくるので、とても居心地が悪かった。
「お名前は?」
「ナマエ・ミョウジです」
「英語はどのくらい分かる?」
「まだ勉強中で……」
オズバート先生にそう言うと、隣のドラコがフッと鼻で笑った。ムッとしてドラコに振り向けば、彼は意地悪な顔で「先生、この子に合わせないといけないんですか?」と言った。
「これじゃあ先生、僕の魔法の勉強が進まないです。まさか君、アルファベットくらいは言えるんだろう?」
「……出来るよ!」
私は涙目でドラコを睨みつけた。ドラコは私の反応を見て、相変わらずせせら笑っている。私はオズバート先生に「先生、私も魔法の勉強します。教えてください」と申し出た。
それから私達はオズバート先生に簡単な魔法を幾つか教えてもらった。杖は先生が用意してくれた、誰でも使える標準的な杖を借りた。自分の杖は、ホグワーツに入る前にダイアゴン横丁で選べるそうだ。私はどの魔法もドラコより先に成功させる事が出来たので、おかげで先程までのドラコに対する怒りはすっかり消えて優越感でいっぱいだった。
勉強の中には、"純血の血を護る事がいかに重要か"という物も含まれていた。ただ、"マグル生まれの劣悪性"の項目で私がいちいち口を挟んでしまい授業が進まらなくなった為、その項目の授業は中断となってしまった。
「坊ちゃんもお嬢ちゃんも大変優秀です!きっと素敵な魔法使いと魔女になれますよ。では今日はここまでにしましょう」
オズバート先生はそう告げると、マルフォイさんへ挨拶をしに部屋を出ていった。ぺこりと頭を下げる私の横で、ドラコがドサッと偉そうにソファに腰を下ろす。それから私の手首掴んで無理矢理隣に座らせた。
「……痛いよ」
「ナマエ、なんだよさっきのは」
「……だって、私お友達にマグルの子沢山いるもん」
ドラコが汚物を見たとでもいう様な表情を浮かべたので、私はムッとして睨みつけた。
「君は色々と勉強しなきゃならない事が多いみたいだ……英語も下手くそだし。英語の方は僕が教えてあげるよ」
手首を擦りながらドラコを避難するように見れば、ドラコはさも「有難いだろう?」という表情でそう言った。勿論私の答えは決まっている。絶対絶対"ノー"だ。
「嫌だ」と言おうと口を開きかけた時、客間の扉がコンコンと叩かれた。そして開かれた扉へ視線を向けると、マルフォイ夫人がお茶やお菓子の乗せられたお盆を持って笑顔で現れた。
「ドラコ、勉強は終わったんじゃなくて?」
「実は今からナマエに僕が英語を教えてあげるんです。彼女まだ英語が苦手みたいだから」
「あらそうだったの。二人とも勉強熱心で偉いわ。じゃあこのお茶菓子でも食べながらお勉強なさってね」
マルフォイ夫人はドラコがまるでマーリン勲章でも授けられたとでもいう様な喜びと誇らしさいっぱいの顔で部屋を出ていった。部屋にマルフォイ夫人が持ってきた紅茶と焼き菓子の良い香りが広がる。
ドラコは「さて」と言うと紅茶をひと口啜り、「君がどのくらい話せるのか見てあげよう」と偉そうに言った。