本命≠チョコレート



 バレンタイン。それは女の子が好きな男の子にチョコを贈るという日本の習慣。
 現在は友達にあげる「友チョコ」や、男の子が女の子にチョコを贈る「逆チョコ」というものもある。

 では、男が男に贈ったらどうなるのか――それはこういうことになる…。


『本命≠チョコレート』


 新宮寺 社はカウンセリング室の机に突っ伏しながら唸った。椅子の横には大量のチョコが入った紙袋が置いてある。
 そう、今日はバレンタイン。 美形な男に弱い面食い女子や社に愛を捧げる本気女子に襲われる日。

「あー、俺…マジどうしよう…」

 ぐったりとする社に珈琲を出して向かいの席に男が座った。稲穂色の髪を伸ばしたままの男は赤い瞳を細めて己の珈琲に口をつける。

「女子に死ぬほどチョコを貰っといてそれは失礼なんじゃない?」

 この学園唯一のカウンセラー、風見風車が口を開く。社を己と同じく『永久失恋組み』に入れたい彼は、何かと社をカウンセリング室に呼び込み長々と失恋後の対処を講義している。

「や…女子にチョコを貰うのは良いんすよ、ちゃんとお返しするし」
「(するのか)」

 だから女子共に人気なんだろうと推測をしながら、風見が先を促す。

「…意外な奴からチョコ…貰っちゃって…」
「意外って誰? まさか、蓮からとうとう…」
「蓮からは義理を貰いましたよ!」

 若干涙目の社に口を噤むと社が紙袋から青のラッピングをしたチョコを出した。

「……男から、貰っちゃって…」
「男…? くっ…アハハハハハハッ!!」

 大爆笑する風見に社はムスッとしながら目を逸らす。

「相手は? 相手は誰」
「…御神…」
「御神って、御神類…? ブッ、ブハハハハハハッ!!」
「笑い事じゃないですよ! 見てくださいよこのチョコ、高級店のチョコなんですよ!?」
「良かったね社、とうとう彼氏が出来たか」
「彼氏はいらんわ!!」

 顔を真っ赤にして怒る社に笑いが止まらない風見。
 その後一カ月以上、風見にこの話を蒸し返しされる社であった――。


* * *

 和泉竜胆は困惑していた。
 まさか類が竜胆の話を本気にするとは思わなかったのだ。

「逆チョコとはいいものだな」

 隣で満足げの類を見ながら溜め息を付いてしまう。
 嗚呼、こんなことなら『今は逆チョコと言ってお世話になった人や尊敬する人にチョコを渡すんですよ』なんて言わなければ良かった…。

 悪戯は程々にと胸に誓う竜胆であった。





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