儚げな微笑み



 七月七日の数週間前。

 モデルをしている社と巽が七夕特集の撮影をしている日。
 蓮と鏡玲は撮影所に来ていた。

「ここを右かな?」
「あの…宜しいのでしょうか」
「へ? 何が?」
「成り行きで付いてきましたが…ここは――」
「撮影所だけど?」
「…部外者が来てはいけないのでは?」
「社が来ていいって言ってたからいいんじゃない?」
「……そうですか」

 思わず鏡玲は溜め息をつきそうになる。そんな彼女をよそに蓮は先をどんどん進み近くの大きなドアを開けた。

「あ、いた!」

 そこには大きな撮影セットがあり、奥に色違いの着物を着た社と巽がカメラマンの女性と話をしていた。
 ぶんぶんと手を振る蓮にいち早く社が気づき同じく盛大に手を振かえす。

「蓮ー、こっちこっち!」
「……毎回大げさだな」

 隣の巽はふうと疲れたように息を吐き軽く社を睨んでいる。

「もしかしてこの娘達、貴方達の恋人?」

 カメラの調節をしながら蓮と鏡玲を見て微笑むカメラマンに社は「そう、蓮は俺の彼女」と言おうとするが、蓮に「ただの幼なじみです」と笑顔で即答された。

 絶望している社をほっとき蓮は鏡玲の肩を掴みずいっと前に出す。キョトンとしている鏡玲に蓮は「じゃ、後は任せた!」と社の浴衣の襟を掴みずるずると引きずって行く。

「……え?」

 置いてきぼりをくらった鏡玲は思わず巽を見る。が、巽は居たたまれないといった風に目を宙に泳がせていた。
 ゴホンとカメラマンが咳払いをする。そちらを見ると彼女はニヤリと笑いちょいちょいと衣装とメイクを担当している女の人に手で合図をした。

「彼女、ヨロシクねー」
「はーい!」

 女の人は嬉々として鏡玲を隣の衣装室に無理矢理連れ込み満面の笑みで鏡玲に詰め寄った。

「さ、脱いで!」
「え…?」
「もー、サッサと脱がないなら――」

 その後直ぐに衣装室から鏡玲の哀れな悲鳴が上がった――。

* * *

「…あー…悲鳴が聞こえる」
「少し強引だったかな?」

 撮影所から出た蓮と社は遠くからか細い悲鳴を耳にし失笑した。

『我が弟の彼女の為に一つサプライズをしたい!』

 数日前にそんな事を言い出した社は蓮と巽の協力を得て、今日この日に【ドキッ☆鏡玲サプライズ計画】という名の撮影所をも巻き込んだ計画を実行した。

 計画は至って簡単。モデルの撮影で使っている撮影所で本格的に二人の写真を撮るということ。

(…こうして見れば優しいお兄ちゃんだよなぁ)

 不器用な弟の為にここまでするとは、普通に良いお兄ちゃんだ。

「んじゃ、俺達はデートでも行くか☆」

 これさえ無ければだが。

「あ、ゴメン。私直ぐそこで瓊毅を待たせてるんだよね」
「なんですと!?」
「二人で寄り道しながら帰る約束してるからゴメンね」
「……」

 社は見事に灰へと化した。

(くっ、ここは蓮に良いところを見せて瓊毅とはドタキャンさせるしかないっ!)

 ぐっと覚悟を決めた社は撮影所の正面出入り口の方を見てほくそ笑む。
 そこには社と巽のファンが大勢で出待ちをしていた。

「あ〜、今日の撮影は疲れたな〜」
「? 社?」

 ファンの所まで聞こえる声量でワザとらしく声を上げる。
 直ぐ様黄色い声が上がった。

「キャーッ! あれって社さんか巽さんじゃない!?」
「どちらか分からないけど多分そうよ!」
「今日の撮影は着物だったのね! 色っぽくてステキー!!」
「サインしてー!」
「私も私もー!」

 凄い早さで蓮達の方に押し寄せてくるファンに社の目はキラリンと光った。

「蓮! ファンに見つかってしまったっ、早く逃げるぞ!!」

 颯爽と蓮の手を掴もうとする、が――。

「社、瓊毅が迎えに来たから行くね!」

 綺麗な笑顔で蓮は走り去って行った。

「……はれ? え? …うっそ……って、どわぁぁぁぁっ!?」

 社は押し寄せて来たファンに揉みくちゃに襲われたのだった――。


* * *

「完璧! スッゴく貴女に似合うわー!!」
「……そうですか」

 衣装に着替えメイクをした鏡玲にカメラマンは目を輝かせて褒めるが、本人は気乗りしていない。
 着替えながら大方の説明は聞いたのか、不安そうに巽を見ている。

「……」

 サッと視線を逸らした巽は若干頬を赤らめていた。

 美しい藍色の着物に身を包み髪は大人っぽく頭上で結っている。それだけでも綺麗なのに不安そうに上目遣いで見つめられれば男は誰でも落ちるだろう。

「……」
「巽さん…?」

 無言のままの巽だったが一つ深呼吸をして鏡玲の手を握る。
 驚いた彼女に巽は微笑みかけ撮影する所までエスコートした。

「ふふっ、なんだかお似合いね。…さ、綺麗に笑いなさいよ!」

 カメラマンがカメラを構える。
緊張して固まっていた鏡玲だったが「大丈夫だ」と巽に囁かれ思わずふわりと、花のようでいて儚げな気に微笑んだ。

 その後出来上がった写真は二人に手渡され、大事にされたという――。






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