受け継がれた血筋



「あー…終わらない」

 零騎隊屯所総隊長室の更に奥。
 隊長格でさえ普段出入りすることの出来ないそこで、蓮は大量の重要書類と格闘していた。
 時刻はとうに寅の刻をまわっている。今の時点で徹夜六日目なので蓮の体力はそろそろ限界に近い。
 数刻前に気遣わし気に餡蜜の差し入れをしに来た瓊毅が今では懐かしい。

「流石に寝ないとキツイかも」

 年末が近い為本当は少しでも机仕事を減らしていきたいが総隊長が倒れたら本末転倒だ。
 資料として使っていた古い本を片付けようとすると一枚の紙がヒラリと畳に落ちた。

「ん? 何これ…写真?」

 白黒の古ぼけた写真を拾い見てみると、それは十二年程前の当時隊長格の集合写真だった。

「うわっ、懐かしいなこの人達…みんな若いし」

 写真左後ろから、中性的な顔立ちの青年が四番隊隊長の『青波 祭(あおなみまつり)』、その隣が灰羅の養母でもある参番隊副隊長の『弌廼灰名(いつのかいな)』、その灰名の腰を手で引き寄せているのが参番隊隊長『風見風車(かざみかざぐるま)』、その横で無感情の瞳でこちらを見ているのが若かりし頃の弐番隊副隊長『黒神葵織(くろかみきしき)』、対照的に優しく微笑みを浮かべているのが神宮寺兄弟の母親である弐番隊隊長『御浜雪路(みはまゆきじ)』。
 前列左から、こちらを睨んでいるとしか見えない壱番隊隊長の『鬼十院道洩(きじゅういんどうせつ)』、木製の椅子に腰掛けている総隊長『和泉泉水(いずみせんすい)』、口元に笑みを浮かべている零番隊副隊長『浪川浪其(なみかわろうき)』

 文机に肘をつきながら写真を眺める。そういえば小さな頃に全員と会ったことを考えながら、うとうとと瞼が落ちたーー。


* * *

 それは十二年前の春の日。
 神宮寺の屋敷で幼い兄弟と蓮は隠れ鬼をしていた。

「もーいいかい」

『もーいいよ!』

 目を両手で隠していた社は合図の声を聞き手を離した。キョロキョロと辺りを見渡し庭から屋敷内へと入っていく。
 隠れ鬼の範囲は庭以外の屋敷内のみ。少し長めの銀色の髪を揺らしながら目当ての少女を捜す。
 すると早速台所の奥から結った銀色の髪が微かに視界に入った。

「蓮、見つけた」

 ふっと思わず笑みを浮かべながら後ろから抱きしめると「うわっ」と少年の声が発せられた。

「……巽?」

 抱きしめていた腕を解きまじまじとソレを見る。そこには不機嫌そうな巽がいた。銀髪は綺麗に結わえてある。

「……紛らわしいな」

ベシッと頭をはたくと巽は涙目になって頭を抱えた。

「うっ。叩くことないじゃないかっ」
「巽が紛らわしい髪型をしているからだぞ。 オレは蓮かと騙された」
「だって兄さんに蓮ちゃんを見つけさせたくなかったから…」
「…なんだって?」
「なんでもないよ!!」

 ぷうと頬を膨らませている巽を余所に、社は蓮を捜して台所を出て行く。

「兄さん待って!」

 先に行ってしまった社を追いかける巽。するとどこからか物が落ちる音がした。

「……? 誰かいるの?」

 音が聞こえてきた方へ忍び足で歩いていく。すると件の音は母の自室から聞こえてきた。

 母はあの有名な零騎隊弐番隊隊長である。忙しい身であるため神宮寺の屋敷には月に数回しか帰ってこないのだが、もしや帰ってきたのだろうか。

「母上…?」

 障子を開けるとそこには母ではなく大好きな少女が紙の海に埋もれていた。


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