豆撒きにご注意を



 今日は世に言う節分の日である。
 日々忙しくしている零騎隊とは縁がない行事だと思われがちだが、零騎隊屯所内では豆がバラバラ落ちる音がしていた。

 隊長格の会議場でもある広間の中では忙しい身の上であるにも関わらず蓮と菖蒲、巽が逃げる社に豆を投げ――否、思い切りぶつけていた。

「鬼は外ーっ、福は内ー!」

「痛っ、痛い痛い! 蓮はまだしもたっくんの目に心なしか殺意が見えるんですけど!!」

「気のせいだ」

「いやいやいや! 気のせいじゃないよねこれ!」

「煩いぞ社(溜まりに溜まった鬱憤を晴らす良い機会だな)」

「巽さん、顔に出ていますわ。仮にもお兄様なんですからもう少し敬意を払っては?」

「ちょっ、菖蒲がらしくないこと言って――ぎぁぁぁぁっ!!」

 悪意を持った豆の雨が社に降り注ぐ。蓮は面白そうに、菖蒲は『お姉様にまとわりつくな』という念を込め、巽は殺意を込めて投げている。

 そんな惨状を瓊毅と満月、綯凜が広間の隅でお茶を啜りながら眺めていた。満月にいたっては湯飲み片手に豆をぼりぼりと呑気に食べている。

「…毎年騒がしいですね」

「定番だからね。特に社が鬼ってこともあるんだろうけど」

「ははは、俺も混ざろうかなー」

 面白そうに見ていた綯凜がポロッと言う。と、三人に苛められていた社が綯凜を指差して怒鳴った。

「馬鹿を言うな綯凜っ! 俺を殺す気かーっ」

 綯凜本人は「別に殺る気はないのにー」と笑顔でいるが、去年綯凜が社を泣かしたことを隊長格で知らぬ者はいない。

 と、掃除道具を持って鏡玲と篁晴が広間の障子を開けて入ってきた。二人ともあまりの有り様に呆然としている。大量の豆が畳に落ちている光景はなかなか無いだろう。

「この惨状は…。掃除の事も考えてほしいですね」

「うん、掃除要員は大変だよ…」

 というか豆が勿体無いと愚痴を零している篁晴の後ろに、緇帷(しい)が顔を出した。

「大丈夫でしょう、今年は増員しましたから」

 全員が一斉にそちらを見ると見慣れた面子がそこにいた。

「うっわ、これ凄っ」

 緇帷の姉であり壱番隊隊士である素泱(すおう)が広間中に散らばる豆を見て驚き。

「これはこれは…。社さんに集中攻撃ですねぇ」

「なっ!? 社さんのお体になんてことをっ」

 静かな佇まいの零番隊隊士の竜胆と、社を尊敬して病まない弐番隊隊士である類は社を心配し。

「あはは、凄いことになってますね。父に聞いていた通りです」

 前壱番隊隊長の父を持つ四番隊隊士の水鶏(くいな)が楽しそうに笑っていた。

 水鶏の父、道洩のことを兄と慕っていた蓮が水鶏の言葉に反応して駆け寄っていく。

「え、道洩さんが何か言ってたの!?」

「『毎年俺が標的にされていた』と言ってましたよ」

 水鶏に同意するように蓮が頷き思い出し笑いをする。

「懐かしいなぁ。私は道洩さんに豆を投げられなかったよ」

 当時は蓮以外の満月、神宮寺兄弟、綯凜は副隊長だった。
 壱番隊で恐れられていた通称「鬼道洩」こと鬼十院道洩に(綯凜以外)逆らえる訳がなく。節分の日は地獄絵のようであった。

「あの頃は逆襲が恐ろしかったな…」

「それをしり目に綯凜は嬉々として投げてたよなぁ。心臓が止まるかと思ったぞ」

「うんうん、あの時の道洩さんは最高だったよ」

『…地獄絵図だ…』

 【鬼に懐く化け猫】と言われるほど綯凜は道洩に懐いている。当の本人に煙たがれてはいたが…。
 
 昔話をしている皆を見ながら、ふと水鶏が類を見た。

「…ねえ、竜胆」
 振り返る竜胆に水鶏は視線を外さぬまま呟く。

「いつか類も標的にされそうだよね…」

「………」

「……」

「…否定できませんね…」


 第二の社にならぬことを二人はコッソリ祈った





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