どの将軍の御代だったか、時は江戸時代。このお話しは朔埜瓊毅が零騎隊に入隊する少し前のこと――。

「いやぁ、暑いね」

 夏の陽射しが照り付ける昼間。江戸の町を歩く二人の男女。
 目当ての甘味処に辿りつくと風鈴が涼しそうな音を奏でていた。

「お姉さん、お茶と餡蜜二つ!」

 女が帯刀していた刀を椅子に置き、席につきながら品物を頼むと男が女の隣に座り周りを見渡した。

「此処が例の甘味処か?」
「ふふふ、江戸に産まれて早二十一年。江戸で一番美味しいと断言できるのは此処だけだよ」
 自慢げに話す彼女に男はふっと笑い、先に出された湯呑みに口をつける。

「流石蓮だな。ここ最近珍しく真面目に仕事をしていたと思ったら今日この日の為か」
「勿論。餡蜜のために仕事をしていたのさっ」
「社が聞いたら泣くぞ。真面目に仕事しているお前を見て感激していたからな」

 そう言って茶を啜ると彼女、蓮は首を傾げて何やら考えこんでいた。

「蓮?」
「なんか、見られているような…」

 餡蜜が運ばれると視線を外に移しながら匙をとって餡蜜を口に入れる。

「美味しい!」

 嬉しそうに破顔しながらも目は外を見据えたままだ。

「ね、巽」
「……なんだ」

 巽と呼ばれた男に自分の餡蜜代を渡すといつの間に食べ終えたのか空の皿を置いて、立ち上がる。

「少し気になることがあるから、先に行ってるね」

 そう言い残して甘味処を出て行ってしまった。

「……ったく」

 彼女の背を見送りながらため息をつき、目の前にある餡蜜を見て困惑する。

「甘い物は苦手なんだが…」

 餡蜜に目がない蓮だ。彼女はいつも通り二つの餡蜜を食べると思っていた巽は長いため息を尽き、仕方なく匙を取った。


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