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それは遥か昔の話し――。
「宮! 宮様っ」
「ん? あぁ、紫か…」
牛車の中でうつらうつらしていた宮は後ろの簾を上げ顔を出した紫に若干驚いた。
「何故こんな時刻にいる?」
「…父様に仕事を頼まれたんです。そこで偶然宮様の牛車を見つけて」
宵闇の頃供も連れずに狩衣のままの紫である。心配した宮はつい口を開けた。
「なら私もついて行こう」
「え、宮様がですか?」
宮は牛車から降り家人に先に帰っていいと命令をし、紫を見る。
「で? 何処だ」
「えっと…此方です」
一般人である宮を連れて行っていいのかと迷いながらも、宮は絶対このまま帰らないなと思い紫は歩を進めた。
* *
右京・七条にある古びた神社。一歩足を踏み入れると言い知れない空気が満ちていた。
(……これは)
宮は何かを感じ眉を寄せ当たりを見渡す。紫に従い神社の裏手に行くとそこは障気が渦巻いていた。
(呪詛…か)
「何者かが此処で呪詛を行っていたのですが、未だ誰を呪っているのか判明せず。それを調べるのが今回の仕事なんです」
呪詛自体はもう行っていないのか痕跡は残っておらず、濃い障気だけだ当たりに漂っている。
「そうか。だが今宵はもう止めておけ」
「宮様…?」
「今宵の月は暗いからな」
雲に隠れて見えない月の空を見上げ宮はそう呟いた。
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