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FF6:セリス/女主/GL


 紅をつけた筆で唇をなぞる感触は、舌で舐めるのに似ていて妙な気分になる。それに彼女の顔が近い。居心地が悪いような思いをしていたら彼女に怒られてしまった。
「セリスさん、動かないで」
「……化粧なら自分でできるのに」
 他人に身支度を任せるのは子供扱いをされているようで嫌。そう言ったら彼女は「子供扱いを怒るのは子供だけですよ」と笑う。
「戦化粧と舞台化粧はやり方が違いますので」
 仰る通り、私にできるのは敵を威嚇し味方を鼓舞し、己を奮い起たせる戦場での装いだ。あとは外交の場で媚びた色の紅をつけるだけ。
 本当は“マリア”に相応しい化粧を知らない。儚く可憐で、守ってあげたくなる女性の役なんて、私にはできない……。
 舞台では観客に役者の区別がつけやすいよう濃い化粧を施す。そのうえ美しく上品でなければならないので難しい。
 彼女は普段、本物のマリアにも化粧をしている人だ。セッツァーが間近で見ても分からないほどそっくりに仕上げてくれるという。
 そして舞台に立っても彼女は私のパートナーだ。彼女は、女性でありながらドラクゥの俳優でもあるのだった。
 今度は私の背後にまわって髪を結い始める。姿が見えなくなったことに安堵と落胆を感じつつ台本に視線を落とす。
 バルコニーでのダンスシーン、照明を使って幻のごとく出たり消えたりを繰り返すため、ドラクゥ役は身軽な女性が演じることが多い。
 今の彼女は中性的な美男子のようだけれど、化粧を落とすと普段はおっとりした女性だから不思議なものだ。ちなみに声は舞台袖から男性が吹き替えるとか。
「はい、完成です。……また来てくださいね。セリスさんに化粧をするのは楽しいので」
「生憎と舞台に立つのはこれきりよ」
 飛空艇を手に入れるためでなければ御免だわ。華やかで明るい場所は苦手だもの。私がそう言うと、彼女はスッと表情を変えて“ドラクゥ”の顔になる。
「恥じらいと期待に染まり、紅を待つ君はとても美しい。命尽き果てようとも離したくはないほどに」
 彼女も薄い紅をひいている。男性用の化粧だ。そして彼女に色をつけた筆が、先ほど私の唇をなぞっていたものだと気づいてしまう。
「今度はマリアではなく、あなたらしい化粧をさせてくださいね」
 今でさえ舞台に出るまでに頬の赤さを隠せるか不安なくらいだもの。私らしい化粧なんて、道化のようにしかならないわよ。


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