珍しく一人でラウンジにいる姿を見たものだから、声をかけようと近寄ったら彼女は俺の接近に気づかなかったらしく、おもむろにシャツの裾をめくるとお腹をむにむに揉み始めた。
「……いったい何を?」
黙って立ち去るのが礼儀だろうに、うっかり声が出てしまった。彼女はこちらを振り返り、特に見咎めることなく笑ってみせる。手は腹を掴んだままだ。柔らかそうだな。
「おー、エドガー。いやちょっと太ったかなと思って確認をね?」
そのシーンを目撃されても動じないのはさすがだ。しかしできれば服を戻してほしい。目の保養だが毒でもある。
俺は女性のスタイルを見分けるのが得意だから、彼女の体重はこの世界にやってきた時から変わっていないと断言できるのだが、本人は気になるようだ。
「太ったようには見えんがね」
「うーん、体重はあんまり増えてないと思うんだけど、この柔らかさは絶対にヤバイ」
触ってみる? と聞かれて不覚にも固まってしまった。……なぜすぐに頷かなかったんだろう、もったいないことをした。
「前はもうちょっと弾力的だったはず!」
「レディは柔らかい方がいいと思うよ」
「エドガーの好みに合わせても仕方ないじゃん」
そうさらりと仕方ないなんて言われると少し傷つくな。
「はーあ、ティナやセリスってやっぱり戦闘に出るから締まってるのかな。同じくらい食べてるはずなのにあのスタイルだし」
ティナたちと非戦闘員である彼女とでは確かにエネルギーの消費量も違う。しかし太るほど贅沢な食事を摂れているわけでもないので、現在の彼女は至極健康的な体型となっている。
要するに、何も気にする必要はないんだ。彼女の世界の基準は分からないが、見たところ太っているうちに入るまい。
「それより俺の前でいつまでも素肌を見せないでもらいたいな」
「え、なんで?」
「少しは警戒してくれってことさ」
ようやく服を戻してくれたのはいいが、彼女は「分かってない」とでも言いたげに肩を竦めてみせた。
「王様には警戒心なんか持てないよ。手出されるわけないもん」
「そうかな?」
あまり油断しない方がいい。むしろいつでも出す準備はできている。
正直なところ彼女には「好きなものを毎日好きなだけ食べさせてあげる」とでも言えば済むと思っているんだ。うちの城でいくらでも太ればいい。レディがふくよかでいられるのは幸福の証なのだから。
俺は、おいしいものを食べて満面の笑みを浮かべる彼女を見ていたいな。