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FF10:女主/ルッツ


 血の滲む包帯をほどいてケアルを唱えた。未だ痛々しい傷から目を逸らしたくなる気持ちを必死で堪えていると、ルッツはそんな私を見て苦笑する。
「怪我したのは俺なのに、お前の方が痛そうだな」
「……そうかもしれない」
 自分の傷なら我慢すれば済むことだ。でも彼の怪我を、その痛みを私が代わりに耐えることはできない。守りようのない胸の奥がキリキリと痛み続けるだけ。
 ルッツは痛いとか苦しいとか絶対に言ってくれないし、いつも平気だと笑って誤魔化してしまう。そのたびに私が負う傷も増えていく。
「擦り傷だって痛いものは痛いよ。怪我なんかしてほしくない。もう……討伐隊なんか抜けちゃえばいいのに」
「そういうわけにはいかねえよ」
 シンの脅威を少しでも減らすため。召喚士様がナギ節を作るその日まで、人々の恐怖をほんの少しでも和らげるため。
 倒すためではなく守るためにルッツたちは戦っている。これも必要なことなんだって、分かっているけれど。
「お前にはこんな怪我をさせたくない。だから戦ってるんだ」
「私はそんなの嬉しくない」
 いっそのこと私も討伐隊に入ろうか。そしてずっとルッツのそばに付き従って、回復魔法を唱え続けて。その方がお互いを守りやすいんじゃないか。
 以前、そんなことを言ってみたら、ルッツは真剣な顔で「駄目だ」と頑なに拒絶した。
 そばにいて二人で戦えば、お互いを庇って命を落としてしまうかもしれないから。それは……否定できなかった。
 目の前でルッツが危機に瀕したら、私はこの身を投げ出して庇おうとするだろう。私がそうする限り、ルッツも同じことをする。
「こんな軽い怪我はお前が治してくれるだろ? それに、俺が無事に帰ってくればお前の傷も癒えるし」
 でも毎回毎回、擦り傷で済むとは限らない。私の拙いケアルでは足りなくなるほどの大怪我をしたらどうするの? 誰がルッツを助けてくれるの? もしも瀕死の傷を負って、ビサイドに帰って来ることさえできなかったら……。
 消沈する私を見つめ、ルッツは曖昧に微笑んだ。
「もう怪我をしないとは言えないけど、俺は必ず帰ってくる」
 だからここで待っててほしいと彼は言うのだ。私が彼の居場所である限り、帰るために生きていられるからと。
 そして私は今日も増えてゆく小さな傷に、眉をひそめて耐えるだけ。


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