ウイナッツォ様はぐーすか眠っている。否、より正確な表現を求めるのであればウイナッツォ様は“眠っていた”。
先程まではくったりと横向きに寝そべり、寝苦しかったのか今は体勢を変えて、前肢にあごを乗せて寝息を立てている。
下敷きにされていた右のほっぺたは寝癖がついてしまって、毛並みがぺたりと頬にくっついていた。
逆向きに撫でつけられた毛がただでさえ間抜けなウイナッツォ様の面構えをより一層の間抜けに見せている。
そんな自身の姿を気に留めることなく寝こける姿はとても……。
「かわいい」
私の呟きに反応したかのごとく、ウイナッツォ様の耳がぴこぴこと動いた。そう、実はウイナッツォ様は起きているのだ。
より正確な表現を求めるのであれば、ウイナッツォ様はさっきまで確かに眠っていたけれど、今はバレバレの狸寝入りをしている。狼のくせに狸寝入りとは。
単純で単細胞でアホでバカなこの御方らしく、よほど鈍い相手でも簡単にバレてしまいそうなほど稚拙な寝たふり。それでも私はウイナッツォ様が起きていることに気づかない顔をしている。
そうしてまた私がぽそりと「かわいい」と呟いてみたならば、その言葉を聞きたいがためにウイナッツォも白々しい寝たふりを続けるのだ。
「……大好きですよ」
もちろん彼が起きている時には絶対に言いたくなんかないけれど。
ウイナッツォ様は私が気づいていることに気づいていない。ええ、あなたが勘違いしてる今だからこそ、こんなことでも小声で言えるのです。
今のウイナッツォ様は眠っていて、私の言葉など届くはずがないのだから。
だから小さく「俺も」なんて呟いたその言葉は、単なる寝言だということで処理しておきますね。