異世界にも四季はある。俺が身を寄せているこのバロン王国ってところは、俺が元いた世界よりも冬の寒さが厳しかった。
人間にも動物にも、モンスターにも平等な真冬の寒さに身を晒して、なんとなく心地いい気分になる。
でもベイガンはいつもの薄笑いを浮かべつつあんまり楽しくなさそうにしていた。
「この時期は気温差が堪えますな」
「だから手袋した方がいいって言ったのに」
屋敷は暖炉で徹底的に暖められていたのでベイガンには暑いくらいだった。手袋なんかしたら暑すぎるといって、彼は秋口くらいの服で出かけてきたのだ。
しかし屋敷の門を一歩くぐれば外は雪がちらつく真冬のバロン。変温動物にはなおのこと辛いだろう。
俺はしゃべるたびに白い息を吐く。ベイガンは、見た感じいつも通りだ。本性がヘビのモンスターだから白い息も吐かない。
まるっきり人間に見えるのにやっぱりモンスターなんだって、こんなところで実感させられる。
屋敷を出て十分ほど経つ。ベイガンの足取りは目に見えて遅くなっていた。いつも防寒対策バッチリだから、こんなに動きが鈍い彼は初めて見る。
「お城に行くんじゃなかったのか?」
ついに体を強張らせて立ち止まってしまったベイガンを見上げる。顔色が青白くなっちゃってるよ。
「やはり屋敷に帰ります。暖まらねば冬眠してしまいそうなので」
真面目な顔して冬眠とか似合わないことを言うもんだから笑ってしまった。
国王の呼び出しにすぐさま応じないなんて不敬だって言われそうだけど、王様もベイガンと同じくモンスターだから融通がきくのはありがたいよな。
寒くても動きが鈍くなってもベイガンはポケットに手を突っ込んだりしない。そんなことしても暖かくならないからだ。
俺は彼の腕をとって、自分の手のひらで冷たい手を握り込む。
「どうしました?」
「手袋の代わりだよ。俺って体温高いし。あったかいでしょ」
屋敷に着くまで包んでてやるよと言うと、彼は珍しく嬉しそうな顔をしてありがとうと笑ってくれた。