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FF4:TA/ゲッコウ/女主


 どこまで非情になれるか。それは忍を目指す者にとって避けては通れぬ命題だった。
 先日、ダムシアンの南にある小さな村が地図から消えた。魔物の襲撃を受けたのだ。
 ダムシアン城が先の戦いで破壊され、辺境の町村を守る兵がいなかった。助けの来ぬまま女子供も老人も魔物に蹂躙された。
 討伐隊が編成され、彼らが到着した時には食い散らされた人の残骸だけが転がっていたという。
 その報告をもたらしたのは亡き王妃に仕えた一人の“くノ一”だ。ダムシアンに潜入していた彼女は一部始終を見ていた。
 起きたことのすべてを黙して見つめ、そして静かにその場を去り、村の崩壊を我が国に伝えたのだ。
 かつてエブラーナ城が魔物の襲撃を受けた際にも彼女はその光景を見ていた。影に潜み、城が破壊されて王と王妃が攫われるのをじっと見つめていた。
 結局、城にいた者は彼女を除いて全員が魔物に殺された。
 御館様と守役殿はその忠義を誉め、彼女を重用している。彼女が生きていなければ皆の死を御館様に伝える者はいなかったのだ。
 しかし、口には出さねど彼女を卑劣な臆病者と謗る者も多い。憐れむ心に欠けた女だと。
 俺はただ、年端もいかぬ子供が、己の親と等しい歳の老人が無惨に命を散らせる横で、自分ならば冷静でいられるだろうかと考える。
「なぜ黙って見ていられるのですか」
「村人を守って死ぬのは私の役目ではありませんから」
「役目……」
 己が命を擲つのは簡単だ。しかし死ねば誰も守れない。それでは意味がない。忍びの道は生きてこそ。生きて、耐えて、真に為すべきことを成さねばならない。
 身を挺して誰かを守るのは、正義なのか欺瞞なのか。
「忍は心に刃を持つもの。しかし私たち“くノ一”は、その刃で心を切り刻むのです」
 痛む心がなければ冷静に人の死を見つめられる。彼女の瞳が穏やかなのは、それ故なのか。
「しかし……貴女にも心はある。でなければ、なぜ彼らを見捨てたのか、答えを出そうとはしないでしょう」
 ふと貼りつけたような笑みを見せ、彼女は言った。
「ゲッコウ殿は忍に向いてませんね」
 そうかもしれない。だが俺は知っている。民を見る彼女の目を。いつ喪うか知れぬが故に、その景色を魂にまで焼き付けようとする視線を。
 臆病だとも冷酷だとも思わない。彼女は自分に与えられた役目を理解しているのだ。だから俺は、彼女のような忍になりたい。
 絶望を堪え忍ぶことができる者に。


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