どしゃ降りの雨の中を無防備にザンゲツさんが歩いている。白髪も着物もびっしょり濡れてしまった彼に、今さらではありつつも傘をさしかけた。
城まではまだ遠いのだから、冷たい雨に晒し続けるのは体に毒だ。
「風邪を引きますよ。もうお爺さんなのだから子供みたいにはしゃいで無茶しないでください」
「これくらい無茶のうちに入らんわい」
心配してるのに、ちゃんと分かってるんだろうか。軽く笑っているザンゲツさんに息を吐きつつ傘を手渡す。
彼は年のわりにとても大柄なので、腕を伸ばして傘をさしかけながら歩くのは大変だ。だから自分で持ってもらわないと。
……本当は相合い傘というやつをやってみたいけれど、私とザンゲツさんが並んで歩いていたって誰も何とも思わないんだろうな。
釣り合わないのなんて百も承知だ。沈んだ気持ちで自分の傘を開こうとしたら、なぜかザンゲツさんは私の手を掴んで制止する。
雨に濡れても彼の手のひらは熱い。
「どうしたんですか?」
「傘ならワシが持っておる」
私の手から閉じたままの傘を引ったくると、彼は私に肩を寄せてひとつの傘に入るよう促してきた。
「若いおなごと相合い傘とは照れるもんじゃな」
これは相合い傘みたいだと一人で勝手に思っていたけれど、ザンゲツさんの方でもそう捉えていたと知って頬が熱くなる。
「若い娘扱いしてくれるんですね」
歳が離れすぎているせいで周囲からは父娘に見られることもままあるのに、そんな風に意識してくれるなんて思いもしなかった。嬉しい誤算だ。
「お前さんを子供のように思ったことなぞ一度もないわ!」
老いぼれはしたがまだまだ男だと豪快に笑う。老境に入ってもなお気力体力ともに充実し、修行して忍術まで会得してしまった彼の強さが、とても眩しい。
思い余って傘を持つザンゲツさんの腕に抱きついてしまった。
「ザンゲツさん、好きです!」
「こ、これ、止さんか人前で……」
顔を赤らめて周囲を見回す仕草も愛しい。幸いにも今日は雨、人通りは少ないし視界もぼやけている。誰も見咎める人などいないだろう。
それに身を寄せ合わなければ互いの肩が濡れてしまうから、堂々と彼にくっつくことができるのだ。