ある満月の夜、娘は夢を見た。
内容は覚えていないが、とても満ち足りた気持ちで、幸福感に溢れていた。

娘はとても美しかった。



――時は江戸。

娘は子を孕んだ。
しかし、不思議な事に、その娘は子を身籠もる様な覚えはないという。

更に不思議なのは、臨月を過ぎても子供は生まれてこないのだ。

恐ろしくなった女は、一度天狗道に堕ちたと言われる、膨大な霊力を持つ僧侶の元へ助けを求め、京都へ。

僧侶の名を烏丸と言った。

烏丸は女を見るなりこう言った。
「お前は鬼の子を孕んでいる」

女はその後暫くして、子を産み落とし、すぐに死んだ。
子を宿して一年と5ヶ月が経っていた。

赤子を見た烏丸はぞっとした。
髪は深き血の色、瞳は禍々しい光を放つ空の色。
歯は全て生え揃い、母乳よりも生肉を欲しがった。

―娘の子宮は喰われていた。

それでも烏丸は赤子を殺さなかった。
赤子は人々から「鬼子」と呼ばれ、烏丸は鬼子を家の離れに隔離した。
烏丸は鬼子の名を、天佑神助から肖り、佑(タスク)と名付けた。

いつかこの子が神風になる様にと、そう願って。





―――禍福無門の世、時代は江戸。
彼岸と此岸の狭間より這い出した妖怪達が蠢く世界で、唯一狭間に立てる子供が居た。
髪は深き血の色、瞳は禍々しい光を放つ空の色。

人々から鬼子と呼ばれ、ヒトでもアヤカシでも無い小さな"鬼"。

名を、烏丸 佑といい、齢十三。

鬼子は今、江戸の烏丸家当主なり。


「火事と喧嘩は江戸の華?
上等。やってやろーじゃん。
その代わり、精々楽しませておくれよ?」



鬼に天狗に化け狐。
人に紛れお祭り騒ぎでワッショイワッショイ!
今日もまた、滑稽な唄が風に乗り空に響く。


…とかそんな感じのお話。

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