惚れた場所をキスで確かめ合う




遠征に出かける前は、いつも。バーダックは凄く楽し気にしている。それはまるで、遠足に行くのを楽しみにしている少年のようで。そんな様子が戦闘民族らしい、と言えば、らしいのだが。人の気も知らないで、と、名前は肩を落としてしまう。

「浮かねえ顔して、どうした?」

 その日は珍しく名前の顔色を見て、気に掛けてくれた。心配そうに名前の顔を覗き込むバーダック。それが無性に嬉しくて、嬉しくて。名前が本音を打ち明ける前に、彼に鼻で笑われてしまった。

「……腹でも壊したか」
「違うわよ!もう……」
「じゃあ、何だ?」

 名前の膨れた頬を、バーダックの大きな手のひらがそっと撫でた。その漆黒の瞳に真っ直ぐに見つめられると、心まで見透かされてしまいそうで。名前は目線を反らして、うつむいた。大好きなはずなのに、遠征でまたしばらく会えなくなるのに、なかなか素直に甘えられずにいるのだった。そして名前は、遠回しに皮肉を言ってしまう。

「バーダック、楽しそうだから」
「……ああ?」
「そんなに遠征が好きなんだね」
「おう、悪りいか」

 そう言って、屈託の無い笑顔を見せてくれる。彼の笑顔に弱い名前は、責める気も起きなくなってしまうのだ。それでも彼を遠征へ送り出す寂しい気持ちは、どうしても拭いきれなくて。だがそれを言葉にせず黙っていようと、名前は切ない思いを胸に息を飲んだのだった。そして彼女の中で精一杯の笑顔を作ると、名前もバーダックの頬に触れた。白い指先が頬から口元まで伝うと、バーダックはくすぐったそうに微笑んだ。その微笑みも愛おしくて、名前はつい見惚れてしまう。

「……目、閉じろ」
「バーダックも……」

 二人はきつく抱き合うと目を閉じて、静かに唇を重ねた。名前の胸の内に秘めた寂しさが、みるみるうちに溶かされて行くようだった。バーダックの力強い腕が、名前の腰をしっかりと掴んで。口づけも次第に強くなり、息継ぎすら難しくなって行った。

「……ん、息、できないよ」
「名前……」
「……なに?」
「ちゃんと待ってろよ……」

 その一言に、名前は心が救われるような思いだった。大きな手にふわりと髪を撫でられて。名前が安心しきった表情を見せると、バーダックはより強く名前を抱きしめた。まるで離れてしまう現実を引き留めるかのように、強く、強く。

「俺がお前のどこに惚れたか知ってるか……?」

 突然の問いかけに、名前は首を傾げた。惚れ込んでいるのは、寧ろ自分の方だと思っていたからだ。

「……目元と、唇と、ほっぺと、手と、首と」

 そう話しながら、バーダックはその場所へキスを落とした。今度は名前がくすぐったそうに微笑んだ。

「……もう、バーダックってば!」
「可笑しいか?
……俺は真面目なつもりなんだが」
「うん……、私は……」

 名前もまた、バーダックの目元や唇、頬、手の甲、首筋に優しくキスを浴びせた。するとまたバーダックはくすぐったがって笑い、それにつられて名前も笑った。そして彼が遠征から帰還したら、また笑顔で出迎えようと心に決めて。そんな胸の内は露知らず、バーダックはまた名前の唇にキスを落とした。

 お互いが惚れた場所を、キスで確かめ合うようにしながら。一時の寂しさなど掻き消してしまうほど、強く強く、抱き合って。愛を確かめ合うキスも、そして、笑ってじゃれ合うキスでさえ、二人きりのロマンス。
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