舌で感じて甘い熱を
【舌で感じて甘い熱を】
「なあ、まだ……?」
「……まだ」
電子レンジの前で、ウィスキーのロックグラスを片手に、そわそわと落ち着かない様子のターレス。名前は苦笑いして、レシピ本に目線を落とした。
今夜の晩酌のお供は、ターレスのリクエストの「焼きプリン」だった。
名前はもう、飽きるほど何度も作っていたが、ターレスに頼まれては断るわけにもいかず、夕食後に眠い目をこすって、作り始めたのだ。
やがてキッチンに甘い香りが広がり……、ターレスは待ってました!と言わんばかりに、レンジを指差して「出来たぞ!」と急かした。
「なあ、早く……」
「もう、せっかちなんだから……」
名前が立ち上がってレンジの扉を開けると、ターレスが後ろから覗き込み、クンクンと匂いを嗅いだ。
「はあ……堪んねえ」
「ちょっと、どいて」
「……味見する」
「えっ……粗熱とって、冷蔵庫で冷やさないとダメよ?カラメルソースも作るし……」
「いや、待ってられねえ……」
我儘を言い出したら、止められないのは分かっていた。
名前は仕方なく頷くと、ミトンを両手にはめて、プリンを取り出した。
それをテーブルに置くと、ターレスは早速、スプーンを片手に食べ始めた。
「あっつ……!」
「当たり前でしょ……」
「……でも、美味い!」
「お酒と合うの……?」
「ああ、意外と合う、名前も一杯飲んでみるか?」
「……ちょっと、頂戴」
名前はウィスキーを一口だけ飲むと、熱々のプリンをスプーンですくって食べてみた。
すると、まろやかな甘味が広がって、思わず口元をほころばせた。
「美味しい!」
「……だろ?」
「プリンは私が作ったんですけど……」
「酒は俺が作った」
「もう……」
「……おかわり!」
ターレスは立ち上がってレンジの前に行くと、残っていたプリンをその場で食べ始めた。
「ちょっと……!お行儀が悪いわよ」
「……あっつ!……美味い!」
名前が呆れてプリンを食べていると、ターレスが突然、後ろから抱きついて来た。
名前は驚いて、スプーンを足元に落としてしまった。
「……どうしたの?」
「したくなっただけ」
「急に来るから……スプーン落としちゃったじゃない」
「……あーん、してやる」
名前を片手で抱き寄せながら、ターレスはスプーンでプリンをすくって、「はい、あーん……」と言って、笑った。
名前は言われた通りに口を開いたが、プリンはまだ熱く、名前は慌てて飲み込んだ。
「どうだ?美味いか……?」
「だから……私が作ったの」
「おっと、自画自賛だな?」
「……まあね!
たっぷり、愛情込めてるし……」
「……ん?何を込めてるって?」
「意地悪……」
ターレスは名前の髪をくしゃくしゃと撫でると、名前を抱き寄せながら、その耳元に、頬に、唇に、熱を帯びたキスを重ねた。