甘く融ける様なキスで



「ん…っ、ふ…ぁ、ぁ…」
「……んん、っ、ん」

脳天をも溶かすような巧妙な舌が口内を厭らしく這えば、焦がれた身体は忽ち素直にそれを受け入れて「もっと欲しい」と肥大な欲望を示した。自ら舌を絡ませて彼の甘い口内を貪るように胸元をギュッと握りながら、今まで以上に果敢な態度で攻め続ける。すると、勢いに圧された彼から僅かな吐息が漏れて、小さな唸り声と同時に双肩を押し返された。ああ…折角いい気分だったのに、ちょっぴり残念。

「どうした?今日はやたらと食らい付いてくるな、名前よ。それほどまで私を待っていたということか?」
「…まあ、そういう気分なんですよ。それに、最近はブラックさん全然構ってくれなかったじゃないですか」
「それは悪い事をした。寂しい思いをさせた分、埋め合わせをしなくてはな…」

離れた唇から吐かれる言葉は辛辣な咎めでも強請る懇願でもなく、私の斜め上を行くものだった。そして互いの唾液に濡れた形の良い唇をひと舐めすると、ブラックさんは鋭く目を細め靱やかな指先を私の頬に滑らせる。度重なる戦闘のせいで少しばかりガサついた硬いその指先は、非常になめらかな動きで頬を自由に駆け回り、ゆるゆるとそこを撫でた。擽ったくも心地よくもあるその感覚はまるで、毀れ物を扱うように優しすぎる手つきだ。私は彼の大きな手を掴んでグイッと力一杯に自分の首の後ろへ持って行き、強制的に私を包むような姿勢にさせた。そうすると必然的に驚いた顔をしている彼との距離感は再び縮まり、数秒見つめ合い息を吸ったら次の行動へ移行する準備が整う。

「そう思うなら、もっと続けてください。埋め合わせにはまだ足りませんよ」
「ふん、口付け如きで満足するとは…お前もまだまだ可愛げのある奴だな」
「なにか問題でもあります?」
「いや、ない。今しばらくは愛する者と時を育むことに興じるとしよう」

刹那に揺れる艶めかしいその低音は、とても色っぽい上に悦しそうで美しい。そして私の顎の骨格に後背へ誘導した筈の太い指先がスルリと一筆走れば、すぐに激しいキスの猛攻が始まった。後頭部をがっしりとホールドされながら何かに取り憑かれたように無我夢中で愛撫される様は、もはや食べられていると表現した方が適切かもしれない。そのような配慮の欠片もない一方的な愛情表現にさえも、今だけは心から浸かりと思えるほど私の思考は甚だしい錯覚を起こしているようだ。この世界に蔓延る数多の愚者を殺めるために練り上げた悍ましい気刃なんかよりも、衝動的で性的で大人の雰囲気漂う甘いキスを武器に、これから先も私を深い虜の沼へと誘ってほしい。
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