バレンタイン当日
セレネ「……結局押し切られてしまった」
クロム「何が?」
セ「い、いや、何でも無いぞ!?」
ク「わかりやすい子だー」
セ「うるさい。とりあえず貴様、受け取れ。良いか、義理だからな!? 昨今のバレンタインは『友チョコ』とやらが流行っているらしい。私は貴様の友達だし、色々と世話にもなったからな。友情と感謝を贈るのだ。そして心せよ、甘い物が苦手な私がわざわざ作ってやったのだ。有り難く思うが良い!!」
ク「……えーと、ばーれんてぃんって、何……?」
セ「知らないのかっ!?」
ク「……祖国にそんな風習なかった」
セ「……面倒だなこの外国人……」
* *
セ「……だから、その……バレンタインとはな、愛する者……いや、親しき者、そうだ、親しき者に日頃の感謝を込めてチョコレートを贈る行事だ! 何故チョコレートかと言うと、我が国の製菓業界がそう決めたからだな。ちなみに近年ではチョコレート以外も贈るらしいぞ」
ク「ふーん。オセイボやオチューゲンみたいだね。で、その行事とギリとかトモチョコとかはどういう関係なの?」
セ「ぐっ、覚えていたか……! まあ良い、教えてやろう。義理チョコは言葉通り、交際する上での必要にかられて贈るチョコだ。そして友チョコとは、友達に贈るチョコのことだ。だからこれは友チョコだ。良いな?」
ク「ど、どうしようセレネ!? それならオレも君にチョコレートを贈らなきゃいけないのに、知らなかったから用意して無い!!」
セ「案ずるな。我が国のバレンタインは女から男に贈り物をするのが主流とされている。これは製菓業界が『女性から男性に愛の告白を』というコンセプトで商業を展開したからだな」
ク「愛の、告白って……」
セ「ち、違う、違うぞ!? 私は、単に友達として贈るんだからな!? 勘違いするなよ!?」
ク「うん……わかってる。ありがとう、セレネ」
セ「(……わかるなよ!!)
ふん、貴様が素直に礼を言うと気味が悪いな。だがな、バレンタインは礼を言うだけでは終わらない。一ヶ月後にあるホワイトデーという行事で三倍にして返すことで、ようやく終りを迎えるのだ。つまり一ヶ月というのは準備期間だな。
繰り返すが、私は甘い物が苦手だ。それを考慮しろよ」
ク「喜んでもらえるよう頑張るよ」
セ「うん! 貴様もせいぜい、私みたいに悪戦苦闘するが良い!」
ク「(……素直じゃないなあ)」