はるをうたう 3
こんなに賑やかな夕食はいつ以来だろう。
食卓はとても華やかだった。エビとイクラと菜の花のちらし寿司、ツクシの白和え、ハマグリのお吸い物、カブの煮物、……デザートに菱餅ゼリーも出てきた。豪華だ。
若干一名、文句を言っている奴もいるが。
「なんでツクシ!? 苦ぇべよ」
「生えてたから……」
「何その理由!?」
「トビト、好き嫌いはやめなさいよねん」
食卓を囲めば、あとからあとから話し声が途切れない。ほんとうにこの家は賑やかだ。
「そういえば千織ちゃん、京くん……お父さんから連絡はあったかい?」
ルカの両親は父の先輩にあたる。ルカの両親が交際する手伝いをしたこともあったと昔聞いたこともあった。
そういえばこの人と父もまた幼馴染の関係だったと思い出した。自分とルカにも受け継がれた関係性。もしも自分達がこれから大人になっても、こんな風にこの関係は続くだろうか。……このままの関係でいられるだろうか。
「高校入学の連絡をしたら喜んでくれました。両親は……どちらかでも予定を空けて、入学式には出席したいと言っていました。ワタシは、忙しいなら別にいいって言ったんですが……」
ルカが眉根を寄せ、じっとこちらを見てくる。
「……なに?」
「その一人称、やっぱしまだ慣れないわねん。ちおりん、ずっと自分のこと『オレ』って言ってたもの。受験の面接用に口調を矯正するなんて! なんてつまんないの!! もう終わったんだから戻してもいいのよ!?」
「ほっとけ」
ルカにはやたら不評だが、ワタシはこの自分も結構気に入っていた。
「嫌いになった?」
ニヤリと笑って見せれば、ルカは唇を尖らせた。彼女はそのまま耳に息がかかる距離まで詰め寄り、「あのね」と前置きして囁く。
「……わかってて聞かないでよねん。言っとくけど、あたしを見くびらないで。むしろもっとうぬぼれてくれてもいいくらいだわ」
ルカはさっと身を離すと、
「そこ! 自分の娘をネタに笑ってんじゃないわよ全く!!」
「だってあんた達、完全に私達の存在を忘れてたじゃないの」
口元に手を当ててニヤニヤする自分の母に向かい騒ぎ始める。ルカの父とイサクは遠巻きに眺めていて、トビトは時折揶揄を飛ばす。
これもきっと、この家ではいつも通りの光景。今日はその輪の中に自分もいるのがなんとも不思議で、胸中に妙な感慨が広がって行った。
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