学園 | ナノ

一方的な宣言 後 


 翌週の日曜日、イースターデーの当日。

「ちおりん! せめて雰囲気だけでも味わうわよ!!」

 毎度のごとく上がりこんで来たルカの一方的な宣言のもとに、籠を渡された。中には数個のプリンが入っている。卵の殻を器に使ったエッグプリンだった。それぞれ生クリームやチョコレート、色とりどりのアザランがトッピングされていて見た目にも楽しい。
 倒れやしないかと思ったが、底の方に卵パックが敷いてあった。
 なんだこいつ、器用か?
 料理が全然出来ないオレからすれば、ルカは凄い奴なのである。

「美味しそうじゃん。ありがとう」

「ほんとは千織と一緒にもっと色々したなっかんだけどねん」

 ルカといえばそれっきり、人の膝を枕にしてだんまりを決め込んでしまった。

「あー……。ほら、まぁ、機嫌直せって」

「べっつにー。あたしはただ、千織と一緒に何でもいからイベントを楽しみたかっただけだしぃー」

「来年は手伝うから」

「ほんとにぃー?」

 ぶーたれているルカの上半身を無理矢理起こし、その眼前にプリンを掬って差し出してやる。ちらりとした一瞥の後、ルカはスプーンを咥えた。

「うーん、まずまずの味だわ……。そろそろパティシエ名乗ろうかしらん」

 唇で触れ、舌先で転がして味わっている。こっちがスプーンを持ったままだから、微妙な動きさえも逐一指先を通じて伝わってくる。
 不意にルカの手がスプーンを持ったままのオレの手首を掴んだ。オレが特に力を込めないまま抵抗しないでいると、ルカはオレの腕を動かして自分の口からスプーンを引き抜いた。白い歯の間から小さく覗く赤い舌が、名残惜しそうに離れて行く。ルカはそのままスプーンをプリンの容器に差し入れ、黄色い弾力に食い込ませ、一口分を掬った。

「じゃあ、来年も再来年もずっとずっと、イベントを楽しくしていくわよ」

 相変わらずの一方的な宣言のもと、スプーンを口元に差し出される。
 オレはさも「やれやれ、仕方ない」とでも言いたげな表情を作って口を開けた。


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