学園 | ナノ

新幹線4 


「よぉーし! あっがりー!!」

 回想に浸っていた僕は、高槻さんの声で現実に引き戻された。
 高槻さんの手札が捨て山に消えていき、めでたく空になった手は握り拳に変わって、高らかに天井へと突き上げられる。聞こえるはずのないファンファーレが響いた気がした。

「あたしの勝っちー! ってことでこのお菓子は頂くわよん!!」

 輝かんばかりの、誇らしげな宣誓だった。
 水無瀬さんは悔しそうに高槻さんを見やり、史平は肩をすくめながらペットボトルに口を付けた。たぷたぷとした紫色の液体に、炭酸の気泡が揺れていた。

「あーあ。今度は勝てっと思ったんだけどなぁー」

「まあまあ史平、次のゲームで取り返せばいいよ」

 僕達は座席を向かい合せにしてトランプに興じていた。勝者は景品――お菓子の山から自由に選べるルールで、現在の戦績は……まあ拮抗しているのかな? 各々が獲得したお菓子は大体同じくらいの量だった。
 景品はまだまだある。主に高槻さんと水無瀬さんが持ち寄ったお菓子だ。クッキーやグミやスティック菓子やスナックや飴だけでなく、お煎餅や大福といった和菓子類もあり、果ては駄菓子みたいなのまであって、バラエティに富んでいる。僕も僭越ながら手持ちのお菓子を何種類か提供した。史平はチューインガムを差し出していた。
 高槻さんが今回選んだのはチョコレートの焼菓子。ボリュームがあって、その分ちょっと値の張るリッチ仕様の洋菓子だ。

「にゅふん。これが美味しいのよねん」

 高槻さんが勝ち誇っている。
 い、いいけどね。僕は甘いのよりソースの効いた惣菜風味が好きだから、スナック菓子が取られないならそれでいいや。

「この調子で次のゲームよ!」

「連勝なんかさせるかよ」

 そう言いながら水無瀬さんがカードをシャッフルしていた。よっぽど悔しかったのか、さっきよりも念入りだ。
 そこに、不意にかかる声。

「何のゲームですか?」

 見れば、通路に櫻井君と櫻井さんが立っていた。車内販売員さんの引く台車みたいなものを押しているけれど、借りたんだろうか。台車には駅弁が乗っていた。
 ……あれ? 話しかけてきたのはどっちだろう。この二人は双子だからか、見た目どころか声質も似ている。平時はともかく、今みたいに油断していると聞き分けられない時がある。……慣れれば大丈夫だとは思うけど……。

「あらんお二人さん、戻って来たのねん。おかえりー」

「はい。ただいまです」

 わあ綺麗なユニゾン。双子は声を揃え、そっくりな微笑みを浮かべた。なまじ中性的な顔立ちだから、男女差なんて物ともしていない。

「ねぇあたし前々から思ってたんだけど」

 高槻さんは何を思ったかビシッビシッと双子に人差し指を突きつけた。

「なんで君達双子なのに前髪を左右対称にしないのよ! 二人並んだ時に生まれる鏡合わせのアンシンメトリーこそがツインズのダイゴミってえ――」

「わけわかんねえこと言ってんじゃねえ。ヤマトとユミナが困ってんだろーが。あと狭いんだから立つな、ばか」

 水無瀬さんがヒートアップする高槻さんを押し留める。

「ごめんな。こいつは別に悪い奴じゃねーんだよ。致命的に頭おかしくて、ついでにテンション高くてガチでウザいだけなんだよ」

「ヒドい! ちおりんがあたしを抉る!! 抉っちゃう!!」

「いえ、いいんですよ。去年同じクラスだったので流夏の奇行には慣れましたから」

「お心遣いありがとうございます。千織も色々大変ですね」

「待って! 奇行って単語がスルーされたまま話が進んでいるわ!?」

「話は変わりますが、皆さんそろそろお昼ですよ」

「じゃあちょっと片付けないと。フミヒラ、菓子まとめてその袋に入れてくんね?」

「らじゃー」

「徹底的ね!? いいわ!! 受けて立つわよ!?」

 ポジティブだなあ。


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