小説 | ナノ

『ガールズトーク』と読む。 


 日除けの介在しない、極めてストレートな太陽光線が毛皮を焼く。黒い毛並みが熱を吸収――吸収――吸収――じりじりと焦げる気分――地獄。
 丁度その時ウエイトレスが登場し、慣れた手付きで注文の品を置いていく。自分の前には水の入った皿が置かれたので、ありがたく頂戴することにする。

「それにしても……。頭数揃えたいなら、なにもわたしに声かけるよりも、プラチナちゃん誘えばよかったんじゃない?」

 イルが漏らした一言に、ウエイトレスがにこやかに答える。

「わたくしは仕事中ですもの」

「そうそう。こいつ今忙しいのよ。つまんないわー。あんたちょっとサボりなさいよ」

「現在進行形で人の仕事増やしておいてよくもまあ!!」

 ウエイトレスはじろりとテロルを睨みつけるが、他のテーブルから呼び出しがかかった途端に笑顔に切り替えて去って行った。

「じゃー始めようかー?」

 仕切り直しとばかりにフィルが笑った。

「んじゃ、まず、あんた最近あの性格が破綻した旦那とはどーよ」

 テロル――リンゴジュースとライチゼリー。

「……人の夫を破綻呼ばわりしないでよ。どうもこうも、普通よ普通」

 イル――アップルミントティーと白桃タルト。

「まだまだらぶらぶなんー?」

 フィル――アイスティーと夏フルーツ盛り合わせケーキ。

「ていうかあんた、ちゃっかり本日のオススメケーキ頼んだのね」

「だってフルーツたっぷりなんよ!? これは頼まんと!!」

「ふーん」

 言いながら、テロルのフォークがケーキに伸び、類い希なる早業でメロンはテロルの口の中へ。

「あ―――――――ッ!!」

 絶叫するフィルを尻目にしれっと一言。

「結構美味いわね」

「うわっ、大人気無ぁー。やめなよそういうの」

「この世は弱肉強食なのよ!」

 そう言って自分のゼリーはがっちりガード。さながら食い意地を張ったドラ猫。

「誰も取らないって……」

 本気で呆れるイルの横で、フィルが同意するように頷いた――ただし涙目。
 しかしテロルはそれすらも「はいはい」と手を振ってあしらう。

「でー。話戻すけど、あんた地味キャラのくせしてかなりの幸せ者よね。結婚してー、子供産んでー、幸せな家庭築いてー」

「悔しかったら相手見つければ?」

「わお。辛辣ぅ」

「それにね、君が地味地味言うからわたし、お化粧だって家事だって勉強したんだよ。ソーマくんが恥ずかしくないような女の子になりたくて」

 うげぇ――テロルの顔が盛大に青ざめる。うっかり地雷を踏んでしまった者の断末魔。

「……なんか胸焼けがしてきたんだけど」

「破壊力おっきいなぁ」

 フィルは顔色を変えさえはしなかったが、その眼差しをイルの胸元に固定していた。夏物特有の薄い生地をこれでもかと押し上げる弾力を凝視――ややあって溜息。

「あーあ……うちもそのくらい胸があればなぁー……」

「む、胸は関係ないよ!! それに、フィルちゃんは素材がいいし、オシャレしたら光ると思うよ」

「ほんと!?」

「おーい、この超絶美少女を忘れてない?」

 自らを親指で指し示すテロルに、イルは一瞥さえ与えず告げる。

「テロルちゃん、二十歳で『少女』は止めた方がいいと思う」

「キシャ―――!!」

 荒ぶれるテロルに気付いているのかいないのか、兎も角フィルはマイペースに微笑んだ。

「あ、でも。うち、別に好きな人いなかった」

 テロルとイルは顔を見合わせた――ぬるい笑顔と苦笑が交錯。「こいつヒドイ女だわ」

「……そうだね」

「なんでっ!?」

 結局終始こんな調子で、「ガールズトーク」とやらはテロルの狙った通りにぐだぐだと続いた。
 これで正しいのかは甚だ疑問だったが、自分はあくまで傍観者として、口には出さないでおいた。


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