06
ハクが茶を煎れるために炊事場へ向かった後、夫人はエバに廊下掃除を命じた。
ぱたぱたと足音が遠ざかるのを確認して、ベアタ夫人はゆっくりと口を開いた。
「何にせよ…、あなたが元気そうで何よりだわ」
机の上で手を組み合わせ、ヘイゼルの目を細める。
その目元に深く刻まれたしわ。
「出て行った子は、あなた以外にも沢山いるけど、またここに顔を出す子は少ないのよね。来たとしても、自分の子供を預けるためだったりして。かつてあの子達の親がそうしたみたいに」
くすんだ赤毛には白が増えていた。
「…いやだわ、私ったらグチばかり。年のせいかしら」
夫人がため息をつく。それは周囲が真っ白に染めて、すぐに掻き消えた。
室内には小さな暖炉がひとつ。くすぶった火が音を立てている。
暖炉に向けていた視線を戻すと、夫人の目とぶつかった。
彼女はどうやら、別の話題を探しているようだった。
「ああ、そう言えばね。ビックリしたでしょう。建物と敷地内のもの、新しくしたのよ。内装もいじって。もう三年も前になるけど」
自分は相変わらず笑ったまま、答えた。
「ええ、思い出が消えたようで、寂しい気持ちになりました。」
「でもね。二階のあなたの部屋、あれからずっと空いたままよ。後で見に行ってみなさいな」
意外だった。数少ない一人部屋なので、皆が狙うものだと思っていたのに。
「白堊がね、あの部屋をそのままにしてくれって頼んみこんだのよ。
特に問題ないから、こっちもその通りにしているわ」
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