小説 | ナノ

昼下がり_4 


「なんだったんですか、あのひと」

 フランは半ば茫然としながら、エバの去った扉を眺めました。テロルが肩をすくめて答えます。

「だから言ったでしょ、変な奴だって。別に気にしなくていいわよ。あいつ…エバは怖がりなせいで、ちょっと危険感知能力が高いだけだから」

 サルファーが鈴を鳴らして呟きました。

「…思ったんだけど、テロルの知り合いって変な奴しかいないよね」

「なんだと毛玉。俺とフィルをも巻き込むつもりか」

 その独り言を聞きつけ、ヘリオスが目を三角にします。サルファーはフランを避けて商品棚の上に寝そべっていましたが、首根っこを片手で掴まれてしまいました。

「おいフラン、パス」

 ヘリオスはそのままサルファーをぶん投げました。

「きゃっち!!おかえり、にくきゅう!!」

「テ、テロル、たすけ…」

 弧を描いて飛んで行ったサルファーは、見事にフランの腕の中に落下しました。

「サルファー―――――――!!何してくれてんのあんたら!!」

 フランとヘリオスは互いに目配せし合い、揃って親指を立てました。テロルの絶叫はまるごと無視です。

「さ、最悪!最悪の主従だわこいつら!!」

「凄い。息ぴったりだなぁ」

 フィルが微笑ましそうに目を細めました。しゃがみ、フランと目線を合わせます。

「それにしても、ヘリオスってばこんな相性の良い子どっから見つけてきたん?この町の子じゃないよね?」

「ああ、数日前に雇ったばかりでな」

 フランの手はサルファーをもみくちゃにしながらも、その目は何かを思い出すように遠くを見ていました。

「あたしたちはもともと、カーネリアっていう村のとあるおやしきではたらいてました。でもだんなさまが亡くなって、あとつぎさんもいなかったので、おやしきはつぶれることになりました。だからあたらしい雇い主を探してアルナーに来たんです」

 テロルが首を捻りました。

「カーネリアで屋敷っていえば…確か、ヴァルデーリチェとかそういう名前だったかしら?」

「…はい、そうです。でも、どうしてテロルさんは知っているんですか?」

「ふふん。あたしも魔導師って仕事柄、色々とね」

「誰だそいつ」

 テロルはフランに聞こえないようにこっそりと、ヘリオスに耳打ちしました。

「錬金術師の爺さんよ。ヤバい研究に手を出したとかなんとかで〈連盟〉から危険視されてて、あたしの方にも『調査せよ、場合により討伐も可』って命令が出てたの。ま、その前にその爺さん死んじゃったらしいけど」

 テロルが言うには、その老いた錬金術師は研究費用確保のために貴族のパトロンをつけ、研究成果を売っていたそうです。

「どっかのエセ男爵と違って、金とヒマを持て余したお貴族様方は余裕綽々よね。反魂の秘術に興味津々で、有り金を湯水みたいに注ぎ込んでたみたい。でもその研究者が老衰で亡くなってりゃ世話無いわ」

「いいねー。普通の貴族ってのは、無駄なことに金を使えて」

「ていうかあんたもエセとはいえい・ち・お・う貴族なんだから、庶民よか金持ってんでしょうが。舐めんじゃないわよ」

「お前も魔法を使って稼いでるだろうが」

「魔法研究っつーのは金がかかんのよ!」

「あーはいはい」

「何よその雑な反応はー!!」

 ヘリオスはテロルが噛み付いてくるのを適当さ溢れる動きで受け流しました。
 フィルはそんな二人のやり取りを見て、くすりと笑いました。


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