昼下がり_1
フランは歩きながら腕を組み、眉根を寄せました。どうやら考え事に没頭しているようです。
ラザが、そんなフランを心配そうに見ていることにも気づきません。
「わぷっ!?」
先を歩いていたヘリオスが不意に足を止め、
「ぬ。すまん」
フランは思わず背中にぶつかることとなりました。
ヘリオスは琥珀色の看板を見上げていました。
「『まほうをあなたに。ベルンシュタイン』…?」
その目線を追い、フランは呟きました。
商店街の一角の、小さなお店。ショーウィンドウには銀細工のペンダントや、宝石をちりばめたような髪飾りが並んでいます。なんだかとても楽しそう、とフランは思いました。
「アクセサリーのお店なんですか?」
「いや、雑貨屋だ。ちょっと変わっているがな」
ヘリオスはもう一度フランを見ました。
「丁度良い。生活に必要な小物があれば買ってやろう」
「え、それはわるいですよ!!」
フランは慌てて手を振りますが、
「お前だって私物が無いと不便だろうが。それに、さっきはあんなにアイスをねだった癖に」
フランは半ば押し切られたのと、お店の中も見たいという好奇心に負け、扉をくぐりました。
からんからん。ドアベルが澄んだ音を奏でます。
「いらっしゃいませー」
店員らしきエプロン姿の娘はにっこり笑うと、パタパタと駆け寄って来ました。
「あ、ヘリオス。いらっしゃーい」
どうやら二人は知り合いのようです。ヘリオスがちょっとだけ穏やかに微笑む姿を、フランは意外そうに眺めていました。
「今日はなんだかめずしいものを見る日だわ」
ラザにぽそぽそ話しかけます。
二人が世間話を始めてしまったので、フランはラザと一緒に店内を見て回ることにしました。
さほど広くはない店内には、所狭しと品物が並べられています。なるほど雑貨屋とはよく言ったもので、置物からハンカチ、如雨露、ティーカップ、怖いお面など、統一感は皆無でした。しかもそのどれもが生きているみたいに見えるのです。
「すっごーい…!」
フランはちょっと呆気にとられつつも、なんだか面白くなってきました。
ふと、話し声が聞こえてきました。どちらも若い女の声です。見れば、隅に置かれた椅子(値札付き)に腰掛けた娘が二人、何事かを話し込んでいました。
「そりゃ遺跡調査は魅力的だけど、まずは海水を抜かないと始まんないでしょ?」
「それもあなたに協力して欲しいそうです」
「レファル…。あいつ、あたしを都合のいいマジックアイテムかなんかと思ってんのかしら」
片や、長い紺色の髪の小柄な娘。動きやすい恰好をして、何故か頭に黒猫を乗せています。右頬に大きな傷がありました。
片や、短い黄茶色の髪をした華奢な少女。絵本に出てくる魔女みたいな恰好をして、とんがり帽子を膝の上に置いています。
紺色の娘が顔を上げ、ヘリオスに向けて手を振りました。
「ちっす」
「応」
それだけを交わし、再び顔を戻します。
「大戦前の遺跡に関しては扱いが難しいから、連盟の方でも先送りのメドが…」
なんだか難しい話をしているなぁ、と思いながらフランはヘリオスの元へ戻りました。
「いかん。紹介を忘れてたな」
ヘリオスはフランを見て、頬を掻きました。
「こいつは店主のフィルリア。あっちの猫を連れたのがテロル。テロルと話し込んでる相手は知らないが」
「初顔のお客さんよー。テロルの知り合いだったらしくて、気付いたらずっと話し込んでて」
「カフェ行けよ」
「うちは気にせんし」
フィルはヘリオスのツッコミに苦笑を返すとフラン達に向き直り、しゃがんで目線を合わせました。
「よろしく。うちのことはフィルって呼んでなぁ」
「はい!あたしはフランで、こっちがわん太です」
フィルとフランは握手を交わしました。
「それにしても、すごいお店ですね」
「ここは魔法のかかった道具を売る店なんよ。最初はうちの作ったアイテムだけだったんけど、お客さんの持ち込むアイテムも買い取ってたら、いつのまにかこんなことになっとって」
フィルは店内をぐるっと見回し、照れたように笑いました。
「すてきだと思います」
「えへへ、ありがとなぁ」
「何か欲しいのはあったか?」
「まよっちゃいます」
「そう言ってもらえると嬉しいなぁ」
まるで牧羊犬みたいに笑う人だ、とフランは思いました。
「なぁヘリオス。どこでこんな可愛い子と知り合ったん?」
「ああ、こいつは俺の」
「隠し子です!」
間髪入れずに、かぶせるように、フランは言い放ちました。
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